王はユーリには弱い







「……ふむ、もう3時か。なっ!? さ、3時だと!?
何故誰も起こしてくれなかったのだ!!」



 ぼんやり覚醒する頭。枕元にある時計で時間を確認すると、朝御飯どころが昼御飯の時間もとうに過ぎていた。
 これではおやつの時間ではないか! ドアを蹴破りリビングに向かうと、呆れ顔のシュテルと目が合う。



「王。家の中とはいえ、そんな格好では王としてどうかと思います」

「そんな事より、何故誰も我を起こさなかったのだ!」



 ボタンが2、3個止まったシャツと短パン姿の我を見て、小言をもらすシュテル。
 文句を言いたいのは我の方だというのに! そもそも、起こしてくれていれば我もこんな格好でリビングに来る事もなかったのだぞ!



「それは、ユーリに聞いて下さい。王を起こすと言ったのはユーリですから」

「そうなのか? ふむ。ではユーリ、何故起こしてくれなかったのだ?」

「起こそうとしたんだけど。揺すっても、つついても起きなくて。凄く気持ち良さそうに寝てたから、起こせなくて。……ごめんなさい」

「うむ。そうだったのか、いや我の方こそ起こしてもらったのに悪かった」

「王様珍しいねー、寝起き良いのに。夜更かしでもしてたの?」

「え? もしかして私が抱き付いたりしたから眠れなかったの?」

「レ、レヴィ!? いらん事を言うな!!
違うぞユーリ! そんな事は無い!!」

「王、貴女は男子中学生ですか。ユーリに抱き付かれてドキドキして眠れないなんてベタ過ぎます」

「ぬぁ!? シュ、シュテル!? 何を言っておるのだ!?
我は別にドキドキなどしておらぬぞ!!」

「そうですか。じゃあ試してみましょう
ユーリ昨夜と同じ様に王に抱き付いて下さい」

「うん、分かった」

「シュテル!? って、ユユユユ、ユーリ!? な、何をするのだ!?」

「えっと、嫌?」

「うぐっ!? そ、そそそそそういう訳ではなく……」

「なく?」

「いや、だから、そのだな……」

「うん?」

「ええい! シュ、シュテル我の朝食は――」

「今用意してますが?」



 レビィがいらん事を言うからユーリが昨夜の事を言い出し否定しておると。シュテルが呆れた表情でバッサリと言い捨てよった。
 シュテルのヤツ我を敬おうと思っておらぬのか!? ここは分かっていても臣下としてフォローする所ではないか!!

 動揺し必死で否定する我を見てニヤリと笑い、事も無げに更なる追い撃ちを掛けるシュテル。
 素直なユーリはシュテルに言われ我に抱き付いてくる。うぬぅ、これでは昨夜の二の舞ではないか!?
 上目使いで首を傾げ“嫌”なんて聞かれて、我に肯定出来る訳なかろう!!
 かといって何て返して良いのか分からぬし、言葉を濁し誤魔化そうとしても真っ直ぐと我を見つめる瞳から逃れる事も出来ず。遅すぎる朝食を食べる事でうやむやにしようとシュテルに朝食を要求しようとしたら。こやつ我の言葉を遮り、まだだと言い捨てよった!
 ぐぬぬ、シュテルのヤツこんな状況にしときながらフォローぐらいせぬか!



「う、うぬぅ。ではレビィは……何も思い浮かばぬな」

「ちょっ、ひどいよ王様!? ボク役に立つよ!」

「では、牛乳でも持って来てもらおうか?」

「あ、牛乳は朝ボクが全部飲んじゃったからもう無いよ」

「やはり役に立たぬではないか!」

「牛乳以外には無いの!?」

「無いのではないか? 何も思い浮かばぬぞ」

「うわーん、ひどいよ王様ー!! シュテルんシュテルん、ボク役に立つよね? ね?」



 シュテルが無理ならレビィでと思ったが、こういう状況でこやつが役に立た姿が欠片も思い浮かばぬ。寧ろ悪化する様な確信すら持てる。全くもって残念な奴だ。
 とはいえ、我の臣下だけあって忠誠心は立派なものだな。役に立つと必死に主張してきよる。
 これなら馬鹿なレビィでも出来るであろう? そう思った我は、牛乳でも注いで持ってくる様に指示するのだが、自分が飲み干したから牛乳が無いと言いよるし。
 全くもって役に立たぬではないか! 他に無いと告げると、シュテルに泣き付きよった。
 まったく、泣きたいのはこっちのほうだ!



「はいはい。レビィは居るだけで役に立たつムードメーカーの役割をしてますので王の言葉は気にしなくて大丈夫ですよ。
 それに王はユーリの追求から逃れようとレビィをダシにしただけですので」

「ダシ? ボク美味しく無いよ?」

「そのダシではありません」

「? 良く分かんないけど、王様はユーリに抱き付かれて嬉しいけど嬉しいって言えないからうやむやにしようとしたって事?」

「レビィにしては的を得た事は言いましたね」

「えへへ♪ ボク賢い?」

「はいはい。賢いですから、そろそろ王を助けてあげて下さい」

「は〜い!」



 腰に抱き付くレビィを慰めフォローするシュテル。頬がほんのり紅く染まっておる。嬉しいのか?

 レビィに何かと甘いシュテルがあやつを慰めるのは言わずもがなだが。我への配慮が一切無いではないか!?
 確かに打開策として起用しようかと思った事は認めてやっても良いが、レビィでどうにか出来るなどと思っておらぬし。
 第一にシュテルがフォローしてくれていたらこんな事にはならなかったのだぞ!!



「王様ぁ〜♪ もうすぐご飯出来るから顔を洗って来るようにって、シュテルんが!」

「うむ、そうか」

「ユーリ、王様がご飯食べてる間僕と遊ぼ〜♪」

「あ、はい。良いですよ」



 シュテルの伝言を告げるとユーリを連れて行くレビィ。ゲーム機を引っ張り出しテレビに接続しておる。どうやらテレビゲームをやるらしい。

 暫く見ておると、楽しそうに夢中になっておるユーリとレビィ。どうやら難を逃れられたみたいだな。

 洗面所に移動し、顔を洗っておるとシュテルから念話が届いた。『ご飯の準備が出来ましたので冷めない内にどうぞ。それとユーリを好きなのは分かりますが、へたれ過ぎますよ王』

 ……最近シュテルが我にキツイ気がするのだが、気のせいでは無い気がする。一度子鴉に相談した方が良いのか? まぁ、たまには子鴉の意見を聞いてやるのも一興か。

 遅い朝食を食べ終えた我は子鴉の家に向かうのだった。








おまけ



「王様、それはへたれなんちゃうか? こうやって胸のひとつやふたつ揉んでやね〜♪」

「ちょっ!? こ、子鴉何処を触っておるのだ!!  や、止めぬかっ!!」

「女の子同士なんやからええやん♪ 減るもんやなし、逆に増やしたるからなぁ〜♪」

「だ、誰もそんな事など頼んでないぞ!! それに我はへたれでは無――ひゃぅ!?」

「ん? ここがええんか?」

「ぅあ……ち、違っ!? や、止め――」



 目に涙を溜め、真っ赤に顔を染めたディアーチェが逃げ出した後の八神家には満足そうに、ヤニ下がった表情のはやてが居たとか居なかったとか。




 終わり


 
【2012年5月1日 11月21日 12月11日】 著



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