「フェイトちゃ~ん」
「な、なのーー」
「えへへ、一緒に帰ろ~♪」
「っ!? ご、ごめん。その、あの、ト、トイレ! 私、トイレに行くから先帰ってて!」
なのはに背中から抱きつかれたフェイトは、苦しい言い訳をして教室から飛び出した。
教室に取り残されたなのはは意味が分からず呆気に取られ立ち尽くしている。
フェイトの様子から、なのはが何かをしたと察したアリサすずかはやては、三者三様。
呆れ、微笑む、苦笑い、といった感じである。
「なのは、アンタフェイトに何したのよ?」
「ふぇ~、何もしてないよぉ~」
「まぁまぁ、アリサちゃん落ち着いて」
「そやで、ゆっくり聞き出さんとなのはちゃんも混乱してまうよ~」
「だから何もしてないんだってば~」
「いやいや、なのはちゃん。何もしてない訳ないやん! フェイトちゃんのあの動揺振り、羞恥に染まった頬。
一体なのはちゃんはフェイトちゃんにナニしたんかなぁ~♪」
「いや、何か字が違う気がするんだけど……」
はやての言葉にコクコク頷くアリサとすずか。
ニヤニヤと含みある笑みを浮かべるはやてに嫌な予感がして後ずさるなのは。
「そんな事あらへんよ~、事実そういう事したんやろ?」
「ふぇ? そういう事って?」
「なんやなのはちゃん、わたしに言わせたいんか?」
「いや、だから言ってる意味が分からないんだけど」
「え~、せやからなのはちゃんはフェイトちゃんに人には言えない、あんな事やこんな事したんやろ~♪」
「っ!? ななな、何言ってるのはやてちゃん!? わたしそんな事してないよ!」
セクハラ紛いのはやての言葉に、動揺するなのは。
真っ赤に染まった頬、逸らす視線。その態度から何かをしたと肯定したも同然だ。
その様子に、口角を上げ嬉々としてからかうはやて。
「じゃあどんな事したん?」
「そ、それは、その……」
「ん~、言ってくれれば助ける事も出来るんやけどなぁ~」
「え? フェイトちゃんを元に戻せるの?」
今日一日あんな調子でフェイトに避けられているなのはは、藁にも縋る思いで食らい付く。
「まぁ、なのはちゃん次第やね」
「うぅ~、誰にも言わない?」
「言わへんよ。まぁ、アリサちゃんとすずかちゃんにも知られるけど、しゃーないよね?」
「あぅあぅ。それは良いんだけど、本当に誰にもいっちゃ駄目だからね!」
「分かっとるよ~」
悪戯はするけど嘘は言わないはやてを信じて話す事を決めたなのは。
とはいえ、恥ずかしい気持ちは薄れない訳で、中々核心の部分を話せないでいる。
そんなもどかしさが、傍観者よろしくを決め込んでいたアリサとすずかが我慢の限界になる。
「そ、そのね、昨日そのーー」
「なのは、言いたいことははっきり言いなさい! それとも何か言えない様なやましい事があるのかしら?」
「ち、違うよ!? そんな事ないもん!」
「じゃあオドオドしないで言いなさい!」
「で、でも……」
「なのはちゃん。大丈夫だから、ね? 話してみて」
「う、うん」
尻すぼみになるわたしに強気な口調で尋ねるアリサちゃん。
やましい事って……わたしとフェイトちゃんは付き合ってるんだし別に責められる様な事はしてない。
けど、恋人同士の触れ合いは秘め事な訳だし、話すのは躊躇う訳で。
そんなわたしの心情を察して優しく諭す、すずかちゃん。
微笑むすずかちゃんに毒気を抜かれ気持ちが軽くなるのを感じて頷く。
「傍観者決め込んでたのに、よく介入する気になったなぁ~アリサちゃんすずかちゃん」
「アンタがなのはの羞恥心煽るような言い方してるからじゃない!」
「え~、それが面白いんやん!」
「ったく、面白がるんじゃないわよ!」
「でも実際面白いんやで?」
「駄目だよはやてちゃん。あまりからかっちゃ、なのはちゃんが可哀想だよ」
「程々にするから許して~や、すずかちゃん」
「もぅ、仕方ないねはやてちゃんは。やりすぎちゃ駄目だからね?」
「おおきにすずかちゃん!」
「フォローしてるのか、してないのか分からないわね。
まぁ良いわ。余計な事したら、なのはが怒らなくてもあたしがアンタを張り倒すからね!!」
覚悟を決めて話そうと思ってたんだけど。
はやてちゃんとアリサちゃんの遣り取りを聞いて顔が引きつる。
わたしはやてちゃんに遊ばれてたの? どういう事かなはやてちゃん、後でお話しようか?
アリサちゃんとすずかちゃんが注意してくれてると感動してたら、すずかちゃんは優しいから直ぐにはやてちゃんを許してしまった。
どうやらわたしの味方はアリサちゃんだけのようだ。
「取り敢えずはやてちゃんとは後でお話するとして、話し聞いてもらっても良いかな?」
「ちょっーー」
「良いわよ!」
「待っーー」
「うん、なのはちゃん」
「なのーー」
「うん、ありがとうアリサちゃんすずかちゃん♪」
笑顔でにっこり、後でお話しようね♪ っと、伝えたら顔面蒼白で慌てて謝ろうとするはやてちゃん。
それを知ってか知らずか、はやてちゃんの言葉をタイミング良く遮り答えるアリサちゃんとすずかちゃん。
うん、良いタイミングなの~♪
「って、なして皆してわたしの言葉を遮るんよ!?」
「へー、何か言ってたの。気が付かなかったわ」
「棒読み!? 棒読みやんアリサちゃん!! 心がこもってへんよ!」
「キガツカナカッタワ」
「片言!? 更に酷なったとか!?」
「うっさいわよはやて!! 話が進まないじゃないの!」
抗議するはやてちゃんを冷たくあしらうアリサちゃん。
会話を交わす度にぞんざいになっていくはやてちゃんの扱い。
アリサちゃん、流石にはやてちゃんが可愛そうに思えてくるんだけど。
「そんな事言うたかて、なのはちゃんのお話って肉体言語なんやもん。
わたしまだ死にたない!!」
「はぁ!? 意味分かんないわよ」
「やって、あのフェイトちゃんが生死の境をさまよったって話しやし」
肉体言語とか死にたくないとか、はやてちゃん、わたしの認識可笑しくない?
ほら、アリサちゃんも混乱してるよ?
後でちゃんとお話しなきゃだね! っと改めて思っていたら、わたしがフェイトちゃんを生死の境をさまよわせたとか言うはやてちゃん。
ちょっと待ってよ! わたしそんな事してないよ!!
「なっ!? はやてちゃん、わたしそんな事してないよ!!」
「そうなん? でもフェイトちゃんをなのはちゃんが落とした話は管理局でも有名やよ?」
「何それ!! わたしそんなの知らないよ!?」
「抵抗出来へんフェイトちゃんをバインドで縛って全力全壊のスターライトブレイカーぶつけたって聞いたけど?」
「いやいや、字が違うよね!? それにわたしもフェイトちゃんに同じ事されたんだよ」
「ぶつけたんは事実って事か。無茶しよるで二人とも、それにしてもそんな事するからあんな噂流れるんよ?」
わたしの知らない所で無責任に広がる噂、それによって可笑しくなるわたしへの認識。
全力全壊って……わたしのは全力全開なんだけど何でそんな事言うのかな? はやてちゃん。
認識を改める為に否定するも、字よりもスターライトブレイカーをぶつけた事実の方が重要だった様で、一人で完結するはやてちゃん。
あんな噂が流れるって、一体何の事? まだ他にも噂があるの?
「え? 何か怖いんだけど、一体どんな噂なの?」
「フェイトちゃんはなのはちゃんに、心も体も落とされたって噂やねんけど、ホンマに知らへんの?」
「ふぇ~~、知らないよぉ~」
「はやて、何か言い方が嫌らしく聞こえるわ」
「気のせいやよアリサちゃん」
「いや、日頃のアンタ見てるとそうとしか思えないのよ」
「酷っ!? わたしは聞いた通り言っただけやのに!」
「自業自得じゃない?」
「更に貶された!?」
はやてちゃんから聞かされるもう一つの噂。
見に覚えが無いし、言い方がなんだか嫌らしく聞こえるんだけど気のせいかな?
内心そんな事を思っていたら、アリサちゃんもそう思ったみたいではやてちゃんに注意している。
気のせいと言うはやてちゃんに対して、日頃の行いで嫌らしくにしか聞こえないと言うアリサちゃん。
まぁ、これは日頃の行いが悪いはやてちゃんの自業自得だし、弁護してあげられないなぁ~
「まぁ、はやてはどうでも良いとして。なのは早く言いなさい! 何とかしてあげるから」
「どうでも良くないって!? 酷い!! アリサちゃんのツンデレ!!」
「ツンデレは関係ないでしょ!! って、誰がツンデレよ!!」
「え? アリサちゃんやろ?」
「セクハラ豆狸に言われるなんてあたしも終わりかしら?」
「ま、豆!? わたしそない小さくないんやけど!?」
「アンタ十分小さいわよ? 良いじゃない可愛いんだし」
「うぅ~、フォローになってへん。
実際モテるんはフェイトちゃんとかアリサちゃんやん! わたしも身長欲しい!!」
「いや、アンタも結構モテるじゃない」
「えぇ~、モテるって言うたかてわたしは女の子からだけやもん!」
「それは、アンタがセクハラするからでしょ?」
ツンデレ、豆狸、と言い争うアリサちゃんとはやてちゃん。
どっちもどっちな気がする内容に、呆れて口が挟めなくて見守る事しか出来ない。
身長が低くて女子にしかモテないと思っているはやてちゃんに、セクハラするからと忠告するアリサちゃん。
確かにアレを見たら大抵の男の子は引いてくと思うの。
「そ、そんな!? やったらわたしは一生女の子からしかモテへんって事か!?」
「いや、セクハラ止めたら済む話でしょ」
「え、そんなん無理やん! 胸を揉むんはわたしの生き甲斐なんやし」
「じゃあ、諦めなさい」
「丸投げ!?」
「ちゃんと解決策言ったんだから丸投げじゃないでしょ?」
「じゃ、じゃあアリサちゃんはすずかちゃんの胸揉むな言われて我慢出来るんか?」
「なぁっ!? なななな何言ってるのよ!?」
驚愕するはやてちゃんに呆れながらも答えてあげるアリサちゃん。
まるで漫才の様に見える掛け合いにはやてちゃんの爆弾が投下される。
まさか胸揉み談義の中心に据えられるとは思っていなかったアリサちゃんは動揺を隠せない。
「おーおー、動揺し過ぎやわアリサちゃん」
「い、意味分かんない質問するからじゃない!!」
「え~、分かるやろ? すずかちゃんの胸揉みたいかどうかって聞いたんよ?」
「だ、だから何であたしにそんな事聞くのよ!! って言うか若干質問変わってるんだけど」
「細かい事気にしたらあかんよ~アリサちゃん」
「いやいや、細かくないわよ」
「で、どうなん? 大きさも申し分ないし、柔らかさと感度はSSランクやよ? 触りたいって思うんは仕方ない事やと思うんよ」
「いや、そんな事言われても……」
すずかちゃんの胸について熱弁するはやてちゃん。
勝ち気なアリサちゃんもこういう話題は苦手な様で、押され気味になってくる。
それでも気にはなるみたいでチラチラとすずかちゃんを見ているのだけど、少し顔が赤く見えるのは気のせいかな?
「寧ろ触りたないって思う方がどうかしとるよ? 良く見てみぃ、すずかちゃん脱いだら凄いと思うんよ!」
「ぶはっ!? アンタ態とね!? 絶対態とでしょ!!」
「え~、そんな事アリマセンヨ?]
「っ!? 仕返しよね? 片言だし、良い度胸じゃない!」
「お? やる気なんやね? ええよ、広域攻撃Sランクの実力見せたるよ」
握り拳で熱弁するはやてちゃんの脱いだら凄いという発言に思わず吹き出すアリサちゃん。
いやいや、確かにすずかちゃんは脱いだら凄そう……げふんげふん。
じゃなくて、いや違う事もないんだけど、遊ばれてるよアリサちゃん。
売り言葉に買い言葉、互いに臨戦態勢をとるアリサちゃとはやてちゃん。
何だか凄くノリノリに見えるのは気のせいかな? わたしの事忘れて楽しんでるんじゃないよね?
横道それる会話のベクトルを元に戻すべく、止めに入るわたしとすずかちゃん。
会話が会話なだけに苦笑いになってしまうのは仕方がないと思うの。
「ストップ、駄目だよ二人とも。なのはちゃんの話しを聞いてあげないと」
「いや、でも、はやてが……」
流石のアリサちゃんもすずかちゃんには弱いの。
抵抗してるものの、最後の方は聞き取れないぐらい小さい声になってるし。
「はやてちゃん、まさか本気で言ってないよね?
民間人への魔法攻撃、軽犯罪じゃ済まされないよ」
「いややなぁ~、冗談に決まっとるやん!」
「なら良いんだけど、じゃあそろそろわたしの話し聞いてもられるかな?」
「うん、ええよ」
何とか落ち着いた様なので話し始めたんだけど、話しが進むにつれて皆呆れた様に溜め息をつくのはどうしてなのかな?
「えっと、それで全部なん?」
「ふぇ? そうだよ」
「はやてフェイトを呼びなさい」
「え? な、なんで!?」
「一人だけ聞いたんじゃ不公平でしょ? フェイトサイドも聞きたいわ」
「いやいや、フェイトちゃん呼んでもこうへんやろ? なのはちゃんおるんやし」
「なのはは帰った事にして呼びなさい」
「え? 騙すん?」
「平たく言えばそうなるわね」
「気が進まんのやけど……」
「良いから早く!」
「はぁ、わたしどうなっても知らんよ?」
はやてちゃんにフェイトちゃんを呼ぶ様に言うアリサちゃん。
何か考えがある様で、渋るはやてちゃんを強引にねじ伏せる。
はやてちゃん、損な役回り多い気がする。
「あの、アリサちゃん……」
「あぁ、なのははそこの掃除道具入れに隠れて」
「ふぇ? 入るの? 此処に?」
「そうよ、フェイトがなのはのした事をどう思ってるのか気になるでしょ?」
はやてちゃんをフォローしようと思って声を掛けたら、教室の角を指さすアリサちゃん。
視線で辿ると掃除道具入れに突き当たり嫌な予感がする。
恐る恐る聞いたら、しれっと言ってのけるアリサちゃん。
確かに気にならないかと聞かれれば即答でYESと言える。
凄く気になる!! けど騙してまで聞こうとは思わない訳で、曖昧に答える事しか出来ない。
「そ、それはまぁそうなんだけど……」
「良いから、任せなさい!」
「う、うん分かった」
騙してまで聞くのは気が引けるけど、偶には流れに身を任せて見ても良いかもと思わせる程、アリサちゃんが頼もしく見える。
なのはが掃除道具入れに隠れたのを見計らってフェイトに念話するはやて。
程なく教室にやってきたフェイトはなのはがいないのを確認して安堵の溜め息を零す。
「なんやフェイトちゃん。そんな溜め息ついて意味深やね~」
「あ、いやそんな事ないよ」
「なんや、なのはちゃんと何かあったんか?」
「な、何の事かな?」
「おーおー、流石執務官やね。あんまり動揺せんとは」
「いや、何の事だか訳が分からないよはやて」
「ポーカーフェイスも中々やね~」
「はやては何が言いたいの?」
「え~、わたしに言わせたいん?」
「いや、言ってくれないと分からないんだけど……」
「え~、フェイトちゃんのえっち~♪」
「いや、あの、はやて? 本当に意味が分からないよ」
昨日の事を知ってて、知らないようにからかうはやてちゃん。
身に覚えのない言われように、怪訝な表情になるフェイトちゃん。
というか、えっちなのは胸ばっかり触ってるはやてちゃんだと思うんだけど。
「フェイト、そこのセクハラ豆狸は放っときなさい!」
「酷っ!?」
「フェイト、アンタさっき、なのはから逃げるように走って出てったけど何があったのよ」
「え? アリ、サ。な、何の事かな? 私はトイレに行っただけだよ」
「本当に? じゃあこの場にまだなのはがいても戻って来たのかしら?」
「っ!? そ、それは……勿論だ、よ」
「違うって顔に書いてるわよ?」
話を進めようとしないはやてちゃんを放っておくように一喝したアリサちゃんは、はやてちゃんを無視して話し始める。
核心をつく言葉に動揺を隠しきれないフェイトちゃん。
「うっ!? ホントに何でもないよ?」
「何で疑問系なのよ?」
「だっ、だって」
「誤魔化さなくて良いから、話してみなさい! 人に話すだけでも楽になるわよ」
「……あ、呆れない?」
「はいはい、ちゃんと聞いてあげるわよ」
「うん、ありがとうアリサ」
頼りなさげに下がった眉。
アリサに促され、昨日のなのはとの出来事を話し始めるフェイト。
フェイトちゃんの家に私が遊びに行った事。
部屋でフェイトちゃんにキスしようとして寸前の所でリンディさんが部屋に入って来るというなんともお約束な事をわたしが仕出かした事。
そしてその後、結局キスは出来ないまま帰った事。
というか、フェイトちゃん何もそこまで事細かく言わなくてもいいと思うんだけど。
もうちょっと省こうよ、これじゃあ筒抜けだよぉ~~
掃除道具入れに隠れて隙間から覗くなのはは羞恥心から声にならない叫びを上げている。
言うまでもなく、顔は真っ赤に染まっている。
「って事なんだけど、どうしたら良いかなアリサ」
ほぼ同じ事を聞かされて若干ぐったりしているアリサちゃん、聞かなければいいのに生真面目で面倒見のいい性格がそれを許さない様で。
ホント優しいよね、アリサちゃん。
「あー、ひとつ質問なんだけどフェイト、アンタなのはにキスされるのが嫌な訳じゃないわよね?」
「え? そ、それを聞いてどうするの?」
「キスされて嫌って感じるようじゃ付き合ってる事自体可笑しいじゃない」
「あぁ、うんそうだね。私なのはにキスされるの嫌じゃ、ないよ? 昨日も拒否なんてしてないし……」
「じゃあ何で、なのはを避けるのよ?」
「避け……そうだね、私避けてるよね?」
「なによ、気付いてなかったの?」
わたしとキスする事をどう思ってるか問うアリサちゃんに、動揺するフェイトちゃん。
まさかそんなこと聞かれるなんて思わないよね? わたしも予想外だよ。
キスが嫌と感じるなら付き合ってる事自体が可笑しいと告げるアリサちゃんに対して、質問の意図を理解して嫌じゃないと答えるフェイトちゃん。
だけど、避けてる事を指摘されて避けていた事に気付くなんてやっぱりフェイトちゃんは鈍感さんなんだね。
「う、うん。ごめんそんなつもりじゃなかったんだけど」
「けど?」
「うん。上手く自分をコントロール出来なくて」
「どういう事?」
「昨日、母さんになのはとキスしそうな所を見られて、何か気不味いというか。
その、なのはを見ると思い出すというか……」
「分かった、これはなのはが悪いわ!」
「いや、なのはは悪くないよ!」
「いいえ、悪いのはなのはよ! リンディさんが来る事は予想出来たのよ? なのになのははフェイトを襲ったんだから!!」
「お、襲っ!?」
「わたし襲ってなんかないよ!!」
アリサの発言に驚き目を丸くするフェイト。
アリサの襲った発言に我慢出来ず、掃除道具入れから飛び出すのと同時に抗議するなのは。
バタンという音と共に聞き慣れた声が背後から聞こえ、音を立てて固まるフェイト。
「いいえ、襲ったも同然じゃない!」
「違うもん! ね、フェイトちゃん! わたし襲ってないよね?」
同意を求めるなのはに対して、ギギギと音を立てて振り向くフェイトの瞳に映ったのは言うまでもなくなのはで。
顔面蒼白で額からはだらだらと止めどなく汗が流れている。
「な、のは……」
「フェイトちゃん?」
様子がおかしいフェイトに疑問符を浮かべ首を傾げるなのは。
「……」
「フェイトちゃん?」
口をぱくぱくさせていると思ったら、ぶつぶつ何かを言い始めるフェイトちゃん。
一体どうしたのかな?
「何でなのはがここに居るの? はやてが、なのはは応援要請で管理局に行ったって言ってたのに……」
「おーい、フェイトちゃーん」
「そうか、これは幻覚なんだ! 私が作り出した幻なんだ! そうじゃなければ夢だね?」
「もしもーし」
「そうだ、そうに違いない!!」
「えーと、ごめんね。応援要請は嘘なの」
何度も呼び掛けるも、現実逃避で自己完結するフェイトちゃん。
気持ちは分からなくもないんだけど、そんなに否定しなくても良いんじゃないかな?
なのは本物だよ?
「え? 嘘?」
「うん、嘘だよ」
「えっと、じゃ、じゃあ本物のなのは?」
「うんフェイトちゃん!」
「っ!? は、はやて何で騙すの!? 酷いじゃないか!!」
「そんなんわたしに言われても、苦情はアリサちゃんに言ってぇな! わたしはアリサちゃんに言われて仕方なく言うただけなんよ?」
にっこりと微笑んで、本物だと答えると慌ててはやてちゃんの両肩を掴み、がくがく揺らすフェイトちゃん。
有無を言わず揺らされたにも関わらず、完結に必要最低限な事だけ伝えるはやてちゃん。
まるで、こうなる事が分かってたみたい、やっぱり損な役回りになってるよ。
はやてちゃんの策略だと思っていたフェイトちゃんは呆気にとられてしまう。
「え? アリサが?」
「いや、まぁ、あたしなんだけど。はやて、仕方なくって部分強調して言ってない?」
「気のせいやよ~」
「っち、豆狸」
「し、舌打ち!? ってわたし豆狸やないって!!」
「まぁ、豆狸は置いといて。
騙した事は謝るわフェイト、ごめんなさい」
「わたしの扱いが段々雑になってきてへん?」
「何でそんな事したか聞く権利ぐらいあるよね?」
「昨日の事だけど、なのはにも聞いたのよ。
だけどそれじゃあ、なのはだけの言い分を聞いてのアドバイスになるでしょ?」
「う、うん」
「スルー!?」
「うっさいはやて!!」
「うぅ、酷い、あんまりや~」
アリサちゃんの避難を浴びても、ひょいとかわすはやてちゃんだけど。
お約束の様にぞんざいに扱われて、しょげかえってしまう。
話が進まないのは分かるけど、流石に遣りすぎなんじゃないかな?
「だからフェイトの言い分も聞いた上で、仲直りの手助けが出来ればと思ってね」
「そう、なんだ。でも、なのはがいきなり飛び出すなんて心臓に悪いよ」
「それはあたしの所為じゃないわよ」
「え?」
「なのはが勝手に飛び出したんだもの」
「ちょっと待ってよアリサちゃん! それじゃあ、わたしが悪いみたいだよ!」
「みたいもなにも、なのはが飛び出したんでしょ?」
「そ、そうだけど。アリサちゃんが襲ったとか言わなかったら飛び出してないもん!」
「事実でしょ? アンタが、がっつくから悪いんのよ」
「が、がっついてなんかないもん!! フェイトちゃん、なのはがっついてなんかないよね?」
「えっと、たぶん……」
「たぶん!? 否定してくれないの!?」
はやてちゃん可哀相だなぁ~と思っていたんだけど、矛先が何故かわたしに向いてくる。
慌てて否定するものの、なのはが悪いの一点張り。
フェイトちゃんに助けを求めるも、曖昧に答えられる始末。
そんなつもりはないんだけど、わたしってがっついてるの?
「ごめん、よく分かんないや」
「うぅ~、フェイトちゃんが味方になってくれないよぉ~」
「えぇ!? そ、そんなつもりじゃなかったんだけど、ごめんなのは」
「じゃ、じゃあなのはのお願いきいてくれる?」
「うん、良いよなのは」
「えへへ、フェイトちゃん大好き~♪」
「あぅあぅ、恥ずかしいよなのはぁ~」
わたしの言葉に頬を染め恥ずかしそうにモジモジするフェイトちゃん。
恥ずかしがってるフェイトちゃんも可愛い~♪
取り敢えず言質は取ったし、お願いしたらきっとしてくれる筈。
「じゃあ言うね? キスしてほしいの~♪」
「え? ごめんなのはよく聞こえなかったから、もう一度言ってもらっても良いかな?」
「うん良いよ、キスしてほしいの~♪」
「あれ? 可笑しいな、幻覚が聞こえる。
やっぱりこれは夢? はやく起きないと遅刻しちゃうなぁー」
あははと乾いた笑いを溢し、現実逃避に走ってしまうフェイトちゃん。
わたしそんなに可笑しな事言ったかな?
「あの~、フェイトちゃん?」
「フェイトちゃんじゃないでしょ! このバカちんがぁ~~」
「うにゃ~」
「フェイトはアンタと違って純情なのよ! がっつくなって言ってるでしょ!」
「うきゅぅ~~」
「アリサちゃん、なのはちゃん気絶してもうとるよ?」
とんでもない事を言うなのはにキレたアリサの一撃が、なのはの脳天に直撃する。
勢い良く振り下ろされた一撃に呻き声を上げ倒れるなのはを条件反射で抱き留めるフェイト。
なのはが気絶した事に気付いていないアリサの説教は止まらず、はやてに言われて気付く。
フェイトに抱き留められたなのはを見て苦笑いになるアリサ。
「え? 遣りすぎた?」
「まぁ、フェイトちゃんは守れたからええんとちゃう?」
「そうね、じゃあそういう事で」
「それにしてもなのはちゃん、そこのお醤油取ってって感じのノリで言い出すから怖いな~」
「なのはちゃんは自分に正直なんだよ」
「すずか……何でも正直なのは考え物よ?」
苦笑いのはやて、にこにこ微笑むすずか、呆れるアリサ。
フェイトが絡むと思考が可笑しくなるなのはに慣れた三人は、暴走し過ぎない様に修正するだけ。
「私はアリサちゃんに言われたら嬉しいよ?」
「なぁっ!? ななな何言ってるのよすずかぁ!?」
「偶にで良いから甘えてほしいな♪」
「うぅ!?」
「お二人さん、いちゃいちゃもええんやけどそろそろ帰るで~」
「は、はやてっ!? 別にいちゃいちゃなんてしてないわよ!!」
「私はしてるつもりだったんだけどなぁ~♪」
「すずかぁ!?」
諭すアリサに甘えるすずか、押しに弱いヘタレなアリサ。
こっちのカップルはいつも通りだと、からかいを一つ。
遣りすぎると馬に蹴られるので早々に退散するはやては立派な確信犯である。
「ほってくよ~、あ、フェイトちゃんは、なのはちゃんよろしくな?」
「あ、うんはやて。これって現実?」
「なんや現実逃避してたん? 残念やけど現実やで、キスして~の件も現実やからなのはちゃん目覚めたら大変やね~」
「はやて、人事みたいに……」
「実際人事やもん! まぁ頑張って」
「うぅ、キスなんてどうやったら良いか分からないのに……」
なのはをお姫様抱っこして家まで送ったフェイトが、色々考えすぎて知恵熱を出してしまい。
次の日学校を休んだのはまた別の話。
終わり
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や、やっと終わった……パタリ。
もう、ぐだぐだ過ぎる(苦笑)
皆我が道を進むのは止めてww
はやてさんは胸胸言うし扱いぞんざいだしw
アリサはツンデレだし←ぉ
すずかさんほとんど見守ってると思ったら、最後にアリサで遊ぶしww
一番の被害者はフェイトちゃん。
ごめんフォローしきれんわww
こんなに長くなる予定なんか無かったのにぃ~;;
【2012年1月24日~27日】 著
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