心優しきヴァンパイア
前編








 高町なのは10歳、小学4年生。
 只今非常に困ってます。

 学校から帰宅して家の前なんだけど、金髪の女の子が膝を付いて、うずくまってます。
 暫く見てたんだけど、全く動かない。
 取り敢えず声を掛けてみる事にしよう。



「あの〜、大丈夫?」

「……」



 わたしの呼び掛けに顔を上げたその子は、紅い綺麗な瞳でわたしを見ると言葉を発しないまま気を失って倒れてしまった。

 ど、どうしよう。えとえと、取り敢えず家に寝かせてお母さん……はお店だし、お姉ちゃんもお店だし。
 と、兎に角家に連れて行こう!

 ぐったりしているその子を抱き抱えて、家に上がってリビングのソファーに寝かす。
 同い年かと思ったけど、2〜3才くらい年下かな? 身長も頭一個分低いし。
 それにしても、可愛い子なの〜♪ ってそうじゃなくて、どうしよう。
 病院に連れて行ってあげた方が良いのかな? お母さんに聞いてみよう。

 電話を取ろうと思っていたら、ソファーで寝ているその子が、声を漏らした。



「……ぅん」

「あっ、大丈夫?」

「っ!?」



 起き上がったその子に声を掛けると、体をびくつかせ座ったまま後りされた。
 うん、いきなりで驚くのは分かるんだけど、ここまで怯えられると流石に傷つくんだけどなぁ。
 警戒心を解いてもらう為に事情を説明すると、安心したみたいで、少し近寄ってくれた。



「えっと、そういう事なんだけど身体は大丈夫?」

「う、うん。お腹が空いてただけだから何処か悪い訳じゃないよ」

「お腹空いてるの? 何か食べる?」

「え? わ、悪いよ、そんな……」

「でも、お腹空いてるんだよね?」

「そ、それはそうだけど。これ以上、君に迷惑を掛ける訳にはいかないよ」

「迷惑じゃないもん! ほっとけないの! また倒れでもしたらどうするの?」

「で、でも……」

「それに、お腹空いて倒れた子に何もしないなんて、わたしお母さんに怒られちゃうよ?」

「うっ!? ご、ごめん……」

「だからね? 簡単な物しかないけど、ご馳走させてほしいの」

「うん、ごめんね」

「むぅ、そういう時はありがとうだよ!」

「うん、ごめん」



 空腹で倒れたその子は、ご飯を食べると聞いても頑なに断る。
 お腹が空いて倒れたのに何で遠慮するのかな? また倒れちゃうよ!
 このまま帰られたら気になって寝れられない! まだ寝ないけど。

 という事で、有無を言わさず畳掛けるとやっと折れてくれた。
 こういう時はありがとうって言ってほしいのにごめんと言うその子。
 指摘しても直らない所をみるに、わたしだからじゃなくて元々こういう子なのかな?



「ん〜、カレーライスで良いかな? 甘口だからそんなに辛くないし食べられる?」

「うん、大丈夫だよ」

「じゃあ、温めてくるからそこに座って待っててね! あ、そうだ喉乾いてるよね? 何か飲みたいものある?」

「えっと、何でも良いよ」

「遠慮しなくて良いよ、わたしの家喫茶店やってるから特殊な飲み物じゃない限り大体あるし」

「で、でも……」

「良いから言ってみて?」

「うっ、そ、その……ト、トマトジュースとか?」

「何で疑問系なの? トマトジュースで良いの?」

「う、うん……あるの?」

「あるよ♪ 今注いで行くね〜」

「あ、ありがとう」



 カレーを温めながら、飲みたい物を聞くんだけど、また遠慮された。
 ん〜、甘える事が苦手なのかな? 少し強めに言うと、弱々しくトマトジュースと呟くその子。
 疑問系で言うその姿がちょっと可愛かったけど、ホントにそれで良いのか聞き直すと少し期待に目が輝いている。

 トマトジュースをいれたコップを渡すと嬉しそうに笑顔で受け取るその子。
 あ、トマトジュース好きなんだ。



「そういえば自己紹介まだだったね。
 わたし、なのは、高町なのは。貴女のお名前聞いても良いかな?」

「私はフェイト、フェイト・テスタロッサ」

「えっとじゃあ、フェイトちゃんって呼んでも良いかな?」

「うん」

「わたしの事はなのはで良いからね!」

「なのはさん?」

「さんは、いらないよ」

「じゃあ、なのは」

「うん♪ でね、わたしフェイトちゃんとお友達になりたいんだけど良いかな?」

「え? と、友達」

「うん、駄目かな?」

「いや、だ、駄目って事はないんだけど……」



 軽く自己紹介して、分かった事。
 やっぱり外人さんなのかな? 名字というかファミリーネームだっけ? が後だし、友達になりたいんだけどこの辺に住んでるのかな?

 考えるより聞いてみる方が早いよね? 名前で呼び合う事には直ぐなれたし。
 友達になりたいと言うわたしに対して、言い辛そうに顔をしかめるフェイトちゃん。



「何かあるの?」

「なのははさ、人間だよね?」

「うん? 人間だよ」

「私人間じゃないんだ。それでも良いの?」

「え? 人間じゃないって、それじゃあフェイトちゃんって一体なんなの?」

「私はヴァンパイア、人とは違って普通の食事だけじゃ生きていけない。
 人間の血を飲まないと生きていけない種族なんだ。それでも友達だと思ってくれる?」

「ヴァンパイアって本当にいるんだ……」

「なのは?」



 真剣な紅い眼差しが嘘じゃないと物語っている。
 人間だよねという問いにそうだよと答えると、眉をハの字に下げ弱弱しく話すフェイトちゃん。
 というか、ヴァンパイアってまだ実在したんだ。

 呆気に取られるわたしに疑問符を浮かべ呼び掛けるフェイトちゃん。
 首を傾げるその仕草可愛いかも……ってそうじゃなくて今はお話が先だよね!



「あ、ごめん。授業で習うくらいしか知らなかったから、まさか本当にいるなんて思ってなくてびっくりしちゃった」

「あ、うん。昔は人間と同じくらい、いたんだけど昔、祓魔師との戦争で滅せられて数が減って千人ぐらいしかいないから無理もないよ!
 私の様な純血種は特に数が少ないしね」

「純血種?」

「うん。なのは達人間でいう所の王族みたいなものかな」

「ふぇ〜フェイトちゃんって凄いんだね〜」

「そんな事ないよ、ただ純血種に生まれたって事だけなんだ。
 それに、テスタロッサの家を継ぐのは姉さんだから」



 純血種、人間で言うと王族の様なものらしい。
 凄いというわたしの言葉に、どこか寂しそうな表情で否定するフェイトちゃん。
 お家で何かあったのかな? だからお腹空かせて倒れちゃってたのかな?



「フェイトちゃん、わたしね人間とかヴァンパイアとか気にしないよ? 友達になるのにそんなの関係ないと思うの!
 それに寂しそうにしてるフェイトちゃんほっとけないよ、なのはで良かったらお話聞くよ?」

「なのは。ありがとうなのは、私ーー」

「お邪魔するで〜」



 ヴァンパイアとか気にしないし、友達になりたいと伝えると目を丸くして驚いた後、嬉しそうに笑うフェイトちゃん。
 可愛い、笑った顔、凄く可愛いよフェイトちゃん♪
 そんな事を考えてたら、御礼を言うフェイトちゃんの言葉を独特の訛りのある声が遮った。
 声をした方を見ると、茶髪で藍の瞳の女の子が扉を開けて立っていた。



「おぉ! フェイトちゃん探したで〜」

「……はやて。何しに来たの」

「なんや無愛想やなぁ〜、折角探しに来たのに〜」

「そんなの頼んでないよ」



 笑顔でフェイトちゃんに話し掛け、こちらに近付いてくるはやてという女の子。
 その子を見て、顔をしかめ冷たくあしらうフェイトちゃん。
 凄くご機嫌斜めなの。



「フェイトちゃんに頼まれんでも、プレシアさんらに頼まれたらわたし断られへんやん!」

「うっ!? わ、私だって好きで飛び出した訳じゃないよ!」

「フェイトちゃんの吸血嫌いにも困ったもんやなぁ〜、生命維持に必要最低限くらいは飲んでくれんと困るわ!」

「私そこまでして生きたいとは思わないから放っておいてよ!」

「何言うてるんよ! バカな事言わんとさっさと飲め駄々っ子!!」

「嫌だ!! そんな物飲みたくない!!」



 プレシアさんという名前にたじろぐフェイトちゃんに追い打ちを掛ける様に怒るはやてという子。
 だけど、頑なに拒絶するフェイトちゃん。
 というか、生命維持? 必要最低限? 飲んでない? もしかしなくてもフェイトちゃん人間の血を全く飲んでないの!?



「あの〜、取り敢えずカレー温まったし食べながら話さない?
 それと、わたしにも分かる様に話してくれると非常に嬉しいんだけどなぁ〜」

「ん? えっとどちらさん?」

「人の家に勝手に上がってその言い方はないんじゃないはやて。
というか帰って良いよ!」

「ちょぉ待ってや! フェイトちゃんわたしの扱い酷ない!?」

「放っておいてほしいのに、こんな所にまで来るからじゃないか!」

「友達やねんから心配して何が悪いんよ!! ええからこれ飲んで!」

「っ!? 何でそんな事いうの!? 飲まないじゃなくて飲めないって事、はやては知ってるでしょ!!」

「そやかて、少しでも飲まんとフェイトちゃん魔力空やんか!! このままやとホントに命に関わるんよ!!」

「そうだけど、それでも飲めないんだ。
 理屈じゃない、身体が拒絶してるんだから私だってどうにも出来ないんだよ!」



 はやてという子に輸血パックを差し出され、顔色が一気に変わるフェイトちゃん。
 明らかに怒気をはらんだ瞳で睨みつけ悲痛な叫びを上げる。

 言い争う二人についていけない。
 暗い雰囲気が部屋に広がる、なんだか凄く居た堪れない。
 わたし居ない方が良いかな? そう思って部屋から出ようと移動していたら躓いて転びそうになる。



「にゃっ!?」

「なのは、大丈夫?」

「あー、うん大丈夫だよ」

「なら良いんだけど、怪我したら言ってね? 治す事くらいなら出来るから」

「ふぇ?」

「な、何言うてるんよ!? 魔力も空っぽやのに魔法なんて使ったら寿命削ってまうよ!!」

「良いよ別に、なのはにだったら」



 何とか転ばすに済んだわたしを見て心配そうに声を掛けるフェイトちゃん。
 怪我をしたら治すからと言うフェイトちゃんに間の抜けた声を返す事しか出来ないわたし。
 血相を変えて叫ぶはやてという子に普通の事のように返すフェイトちゃん。
 えっと、寿命を削ってまで治療されるのはわたしは嫌だなぁ。



「ほほぅ、なんやフェイトちゃんその子に惚れとるんか?」

「なっ!? なななな何言ってるのはやて!?」

「え〜、やってその子の為やったら寿命削ってでもええと思とるんやろ?
 ぞっこんやん! いやもう御馳走様♪」

「助けてもらったし、友達だからだよ!
 というか最後のは、訳が分からないよはやて」

「まぁ、友達なんやったら血ぃ飲まして貰ったら?」

「な、何言ってるの!? なのはは友達だよ! 血なんて飲めないよ!!」


 にやりと笑い突拍子の無い事を言い出すはやてという子の言葉に、顔を真っ赤に染めて動揺するフェイトちゃん。
 張り詰めた雰囲気を破ったのはわたしだけど、はやてちゃんって子、更に壊してるよ。
 それも意図的に楽しんでる節が見えるんだけど。

 わたしフェイトちゃんになら血をあげても良いんだけど、フェイトちゃんは嫌なんだね。
 なんだかショックだよ。



「ん〜、やったらわたしが飲んでもええ?」



 飲まないと言い張るフェイトちゃんに自分が飲んで良いかと聞くはやてという子。
 ちょっと待って、飲み物みたいに言われるのはちょっと……いや、ヴァンパイアにとってはそうなんだろうけど。
 それに本人を無視して話を進めるのは止めてほしいかな。



「駄目だ!! そんな事したら、いくらはやてでも私許さないよ!!」

「そうくるんか、ほんならええよ」

「はやて?」



 庇う様にわたしとはやてという子の間に立つフェイトちゃん。
 だけど、予想通りの反応だったのかあっさり引き下がるはやてという子。
 その反応に呆気に取られるフェイトちゃん。



「今更なんやけど、自己紹介してええ? わたしは八神はやて。
 今までの会話聞いてたら察しはついてると思うけど、フェイトちゃんの友達でヴァンパイアの純血種や!」

「えっと、高町なのはです」

「わたしの事ははやてでええよ、わたしもなのはちゃんて呼ばせてもらうし♪」

「じゃあ、はやてちゃん」



 軽く自己紹介してフレンドリーな雰囲気を出すはやてちゃん。
 嬉しそうに、にししと笑う顔につられて緊張感が和らぐ。
 もしかして狙ってやったのかな?



「知り合って間もないんやけど、なのはちゃんを見込んでお願いがあるんよ〜
 頼まれてくれへんかな? 勿論御礼はするつもりや!」

「えっと、御礼とかは別に良いよ。友達だし、わたしに出来る事だったら良いんだけど取り敢えず話してもらえるかな?」

「おおきになのはちゃん! 思った通り優しいなぁ〜、頼みたい事はフェイトちゃんと吸血の契約を交わしてほしいんよ」

「吸血の契約?」

「そや、フェイトちゃんなぁ〜この年になっても吸血の契約を交わしてへん所か吸血自体一切せえへんねん」

「は、はやて!? なのはに余計な事言わないでよ!!」

「うっさいフェイトちゃんはちょぉ黙っとき!!」

「はやーーむぐっ!?」



 吸血の契約を交わしてほしいと言うはやてちゃんに慌てるフェイトちゃん。
 一喝するはやてちゃんは、それでも引き下がらないフェイトちゃんを黙らせる為に実力行使する。
 白い包帯の様な物がフェイトちゃんの口と手足に巻き付き、動きと言葉を封切る。
 若干みの虫の様になったフェイトちゃんが、横たわりながらも必死で藻掻いている。



「往生際が悪いねん!! ちゃんと吸血さえして魔力のある状態なら、わたしにバインドなんてされる事もないっちゅうのに!」

「えっと、はやてちゃん吸血の契約って何?」

「ん〜、簡単に説明するとやね定期的に血を与えるっていう契約やね。
 献血の様なもんやと思ってもらってええよ」

「血を?」

「そや、まぁ普通の献血と違って全く痛くないし、血と一緒に毒素も取るから健康になるよ〜
 それに、ヴァンパイア協会から報酬も支給されるし、ヴァンパイアの加護も受けれる。
 ええ事尽くめやで〜」

「えっと、わたし小学生だし報酬とか別にいいというか。
 それより、フェイトちゃん血飲めないんだよね? わたしの血で大丈夫なの?」

「わたしの超直感やと大丈夫やと告げとるんよ〜」

「超直感?」

「ん〜、わたしら八神の血筋のバンパイアは代々直感力に優れてて超直感をもって生まれるんよ」

「そうなんだ。で、嫌がるフェイトちゃんにどうやって飲ませるの?」

「そこが問題や!」

「えぇ!? 何か考えがあるんじゃないの!?」



 吸血の契約を簡単に説明するはやてちゃん。
 わたしは友達が困ってるなら助けてあげたいけど、フェイトちゃん血飲めないんじゃないの?
 その問いに八神家に代々受け継がれている超直感が大丈夫だと告げてるとの事。
 はやてちゃんを信じて、嫌がるフェイトちゃんにどうやって血を飲ませるのかを問うと、丸無げな返答が返ってきて思わず叫んでしまう。



「普通はヴァンパイアが契約者の首筋から自分の牙で血を頂くんがセオリーなんやけど。
 あの様子じゃ無理やろ?」

「無理だね〜、じゃあわたしの指から上げるとかどうかな?」

「指からか〜、差し出しても口開けるようには見えんけどやってみる?」

「何事もやってみないとだよ!」

「そやな、分かったなのはちゃんに任せるわ!
 あ、痛ない様にこれ使って!」

「何これ、アイスピック?」

「まぁ、形状は似てるけどちゃうよ、一様ヴァンパイアの牙で作っとる特別製や。
 わたしの乳歯やねんけど、そこん所は堪忍なぁ?」

「ふぅん、だから痛くないの?」

「まぁ、そういう事や」

「じゃあはやてちゃん、フェイトちゃんの口だけ包帯除けてくれるかな?」

「了解や!」


 わたしとはやてちゃんが話している間も必死に藻掻いているフェイトちゃん。
 どうにか逃げたいんだろうけど、無理だと思うの。
 はやてちゃんによってあっさり解放されるフェイトちゃんの口を塞いでいる包帯。
 準備万端。出たとこ勝負に挑む、わたしとはやてちゃん。
 吉と出るか凶と出るか。





続く



な、なげぇよ!!(ヴィータ風w
最近1本完結な話が書けなくなってる気ががが
ただ、遠慮しまくりなフェイトちゃんがなのはちゃんに血をおねだりする話を書きたかっただけなのに〜

ごめん、前後編になる


【2012年2月12日〜15日】 著



次話

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