心優しきヴァンパイア
主従関係








 私はフェイト・テスタロッサ、純血のヴァンパイア。
 偶然か必然か、空腹で気を失っていた私を助けてくれたのは、高町なのはという蒼い綺麗な瞳をした女の子。
 拒絶反応で人間の血を全く飲めなかった私が唯一飲む事の出来る女の子。
 ヴァンパイアである私に普通に接してくれるだけではなく、友達になってくれて、吸血の契約も交わしてくれた優しい女の子。

 なのはの家にお世話になって1週間が過ぎた、始めは吸血する度に熱を出していた私だけど、少量なら大丈夫になった。
 そんなある日の出来事。



「フェイトちゃ〜ん、朝だよ〜」

「……」

「フェイトちゃ〜ん、早く起きてご飯食べようよ〜」

「……」



 ヴァンパイアの活動は夜。夜行性だ、故に朝が残念なぐらいに弱い。
 フェイトも例外では無くほっておけば、夜まで起きない事は最早言うまでもないだろう。

 そんなフェイトを毎朝色んな方法で起こすなのはは、可愛い寝顔のフェイトを見てよからぬ事を思いつく。



「早く起きないとキスしちゃうよ?」

「……」

「ホントにしちゃうよ?」

「……」



 キス、接吻、ちゅう、口づけ、マウストゥマウス、言い方は色々あるけど互いの唇を重ねるアレ。
 最後のは微妙に違うけど、主に恋人同士でおこなう行為、一般的にキスという言い方が現代ではメジャーである。
 恋人同士がするその行為を、寝ているフェイトに断りもなくしようとしているなのは。
 現在進行形である。



「起きないフェイトちゃんが悪いんだからね?」

「……」

「じゃ、じゃあ、頂きます」



 ごくりと生唾を飲み込み、フェイトの唇目がけて突進するなのは。



「……ん?」



 フェイトの唇目がけて突進した筈のなのはは、独特の柔らかさと暖かみに欠けている感触に眉根を寄せる。
 そう、なのはがキスをしてる相手はフェイトが使っていた筈の枕だ。
 ヴァンパイアの純血、テスタロッサ家に代々受け継がれてきた危機回避能力。
 無意識下においても発動されるこの固有スキルで、なのはの攻撃(キス)を回避したのである。



「あれ? まただ、フェイトちゃんを起こそうとしたらいつもこうなるんだよねー」



 テスタロッサ家の固有スキルを知らないなのはは、寝ているのに毎回避けられるフェイトに疑問符を浮かべてしまう。
 そして、唯一フェイトを起こせるのはトマトジュースの匂いだという事を知ったのは同居したその日、熱を出し寝ているフェイトにトマトジュースを持ってきた時である。



「仕方ないなぁ〜、またこれで起きてもらおうっと」



 トマトジュースの入ったグラスをフェイトの鼻先に近づけたるなのは。
 すぅすぅと規則正しい寝息立てていたフェイトの寝息が変わる。
 すんすん、と確かめる様な息遣いと、うっすらと開いてくる瞼。



「フェイトちゃ〜ん、起きた?」

「……ぅん、なの、は?」

「うん、おはようフェイトちゃん!」

「……おはよう、なのは。それ飲んでも良い?」



 わたしの呼び掛けに、半分夢の中のフェイトちゃんは問い掛ける様に名前を呼ぶ。
 眠たそうに目を擦りながらも、ロックオンされているトマトジュース。
 他の物には目もくれないフェイトちゃんのトマトジュースへの執着心は相変わらずで凄いと思う。



「そんなに飲みたいの?」

「飲みたいけど、なのはが駄目だって言うなら我慢する」

「ぅ、そんな事言わないけどフェイトちゃんのその言い方はずるいよ〜」

「ごめんなのは。でも、なのはが駄目だっていうなら飲まないのはホントだよ?」

「ふぇ? えっと、フェイトちゃんトマトジュース大好きだよね?」

「うん、トマトジュースさえあればご飯食べなくても大丈夫なくらいに!」

「いや、フェイトちゃんご飯はちゃんと食べようよ」

「物の例えだよ、怒られるからちゃんと食べてるよ」

「怒られなければ食べないの?」

「ぅ、ソンナコトハナイヨ?」

「フェイトちゃん、分かりやす過ぎるってば! ご飯ちゃんと食べないとトマトジュースは無しだからね!」

「はぃ……」

「分かれば宜しい! じゃあ、話を戻すけど飲みたい?」

「うん、なのはが許してくれるなら飲みたい!」

「お預けするのも可哀想だし、別に良いんだけど……」

「うん? 何か問題があるの?」

「問題と言うか、お願いと言うか……」

「私もお願いしてるんだし、良いよ? 何をすれば良いの?」

「え、いや、でも悪いよ」

「構わないよ? 何でも言ってなのは」

「えっと、キスしてほしいなぁ〜なぁんて」

「キス?」

「にゃはは、じょ、冗談ーー」

「これで良いかな?」



 キスと呟きながら思案するフェイトちゃんにあわてて発言を訂正していたら、頬に柔らかい感触がして言葉が止まる。
 固まるわたしに合ってるかを確認するフェイトちゃんの言葉で頬に感じた柔らかい感触の正体が分かり不覚にも頬が紅く染まってしまう。



「ふぇ、ふぇいとちゃん!?」

「え? 駄目? 間違ってた?」



 紅く染まった頬がフェイトちゃんに視線を向ける事により更に紅くなった気がするけど、今はそれ所ではない。
 若干裏返った声で名前を呼ぶと、わたしが怒っていると勘違いしたフェイトちゃんがしゅんと落ち込み謝ってくる。



「いや、その、間違っては無いんだけど正解でもないって言うか」

「……怒ってない?」

「怒ってなんかないよ! というか、何でそんなに怖がってるの?」

「だって、なのはいつもの声と違ってたから」

「ぅ、そ、それは吃驚したらであって怒ってはないよ。
 それより、どうしてほっぺにちゅーしたの?」

「ん? かあさんやアリシアとキスするのはいつも頬にだったから。
 キスって頬にするものじゃないの?」

「いや、その、家族間では正解かな?」

「ふぅん、じゃあなのはは何処にしてほしかったの?」

「ふぇ!? そそそそそんな事言えないよぉ〜」



 プレシアさんやアリシアちゃんにキスする時、頬にしているからだと答えるフェイトちゃんに言葉を濁す。
 うん、だから間違ってはないんだけどね? わたしがして欲しかったのは頬じゃないんだよね〜
 まぁ、これはこれで嬉しいんだけどね? 本当にしてくれるとは思ってなかったし。

 緩んだ顔で、内心そんな事を考えていたわたしに何処にして欲しかったのか問うフェイトちゃん。
 まさかそんな事を聞かれるなんて思ってなかったから叫んでしまう。
 結構大きな声で叫んじゃったけど、お母さん達に聞かれて無いよね?



「ん〜、キスってそんなに種類ないよね? 家族間でするキスじゃないって事は、恋人同士のキスって事?」

「にゃっ!?」

「え、当たり?」



 違う心配をしているわたしを余所に答えに辿り着いたフェイトちゃん。
 図星を指され呻くわたしに、予想が当たった事にに喜ぶフェイトちゃん。



「うにゃぁ〜?! ち、違わないけど違っ!? にゃ〜〜!?」

「なのは?? 私何か不味い事言った?」

「にゃ〜〜!? 違う違う、違うもん、そんなんじゃないもん!
 ちょっとしたいなぁ〜と思っただけで、深い意味は無かったんだもん!!」

「……えっと、不味かったみたいだね」



 突きつけられた言葉に、一瞬で冷静さのメーターが振り切れパニックに陥る。
 湯気が出そうなくらいの勢いで、耳まで真っ赤に染まったわたしは、頭を抱えて叫ぶ。奇声と言った方が良いかもしれない。
 わたしにひきかえ、逆に冷静に一歩引いた位置で思案するフェイトちゃん。



「ん〜、つまり要約すると他意は無くて、ただ単に私とキスしてみたかったって事かな?」

「あぅあぅ〜、違うんだよぉ〜」

「なのは、聞こえてないみたいだね。
 別に言ってくれればキスしたのに、って勘違いしてほっぺにしたのは私だったね」

「にゃぁ〜」

「そういえば、口にキスは結婚相手じゃないとしちゃ駄目だって言われてるんだけど……なのはなら良いよね?」



 冷静に状況を分析するフェイトは、流石名門テスタロッサの血筋だと思わせる。
 余談だけど、フェイトは弱い所を突っ込まれると、あたふたしてしまうのはプレシア譲りである。

 あぅあぅ、にゃぁ〜にゃぁ〜、と唸るなのはを余所になのはなら良いかと自己完結してしまうフェイト。
 何処からか、「何を軽く決めてるんですか!! あれほど駄目だと何度も言っているのにあなたって人は!!」という教育係りのお小言が聞こえてくる気がしたフェイトだが全力で無視を決め込む。



「なのは〜♪」

「あぅあぅ〜」

「な〜のは♪」

「うぅ〜」

「……気付いてくれない」



 満面の笑顔と弾んだ声で呼び掛けるフェイトだが、パニックに陥ったなのはの耳には届かず、地味に落ち込む。



「この様子だと半日ぐらいは気付いてもらえない気がする。
 強制的に意識を私に向けさせるしかないかな?」



 どうやって意識を向けようかと考えるフェイトは、暴走した時のアリシアをキスして止めたはやての事を思い出した。
 普段は尻に敷かれるはやてだが、やる時はビシっと決める。そんな所が良いとか惚気てたなぁ〜アリシア。
 と、余計な事まで思いだし複雑な気持ちになる。



「普段おちゃらけてるけど、凄く優しいからなぁ〜はやては。
 アリシアに振り回されて少し可哀想だけど、まぁ仕方ないよね? 婚約者なんだし」


 幼馴染み兼、姉の婚約者のはやてを心配しつつ、やっぱり仕方ないよね? と、だけど心の中で頑張ってねはやて! とエールを送る。



「取り敢えず他に思いつかないし、キスして欲しいっていうなのはのお願いも叶えてあげられるからこのプランで良いかな?」



 頭を抱えてうずくまるなのはの顎に手を当て、くいっと持ち上げるとそのままの勢いで自分の口となのはのソレを重ねる。
 突然の事に思考が追いつかず、数十秒停止したままのなのは。
 一旦口を離したフェイトは呆気に取られたなのはの顔を見て、まだ足りなかったのかな? と思い再度口付ける。



「むっ〜〜!?」

「ん?」

「むっ!? んん〜〜!?」

「……?」


 気が付けば、何故かフェイトちゃんにキスされているこの状況。
 記憶が飛んでる気がするんだけど一体何がどうなってこんな事に!?
 塞がった口からは言葉を発する事が出来ず、唸る事しか出来ないわたしは離して欲しいと訴えるものの。勘違いしたフェイトちゃんは舌まで入れてくる。

 本能で不味いと感じて逃げようとしたんだけど。
 確りホールドされてる為ポコポコと叩いて訴える事しか出来ない。
 数十秒の抵抗も虚しく、無抵抗になってから数十秒。ようやく解放されたわたしは床でぐったりしている。
 というか、何でこんな事に!?
 恥ずかしさで顔がほてる、うん。今、絶対赤くなってるだろうなぁ〜、うぅ。



「なのは、どうしたの? 寝るなら布団で寝ないと風邪引いちゃうよ?」

「……ぃと……ちゃ…の…か……」

「え? 何なのは?」

「〜〜っ!? ふぇいとちゃんの馬鹿ぁ〜〜!!」

「えぇぇぇ〜〜!? な、なのはぁ!? 私何か不味い事したかな?」

「にゃっ!? いきなりキスしといてそれは無いよぉ〜
 離して欲しいって訴えても離してくれないし……し、舌まで……うぅ〜」

「いや、だって、いきなりも何もキスして欲しいって言ったのはなのはだよ?
 離して欲しいって事に気付かなかったのと舌を入れたのは私が悪かったけど……その、ごめんなのは、嫌だったかな?」



 何とか気力が回復したわたしは、朴念仁な発言をするフェイトちゃんに不満をぶつける。
 確かにキスして欲しいって言ったのはわたしだけど、ここまで望んでた訳じゃないし、流石に遣りすぎだと思う。
 わたしの言葉に反論するフェイトちゃんだけど、遣りすぎた事は自覚してるみたいで。
 飼い主に怒られた犬の様にしゅんとしょげ返ってしまう。



「フェイトちゃん。嫌な訳じゃないよ、そこは誤解しないでね?
 でもね? 流石に遣りすぎだと思うの、わたしの言ってる事分かるよね?」

「……うん」

「それと一つ確認したいんだけど……フェイトちゃん何度もそういうキスした事ってあるの?」

「え? そういうキス?」

「いや、だから、その、お、大人の……」

「あぁ、無いよ。なのはが初めてだから」

「嘘!?」



 誤解の無い様に、だた遣りすぎだった事を伝えると素直に返事をするフェイトちゃん。
 だけど、腑に落ちない事が一つ。キスが上手すぎるって事。
 聞きにくいけど、知りたい。羞恥心を押さえ込み怖ず怖ず尋ねるとさらりと無いと答えるフェイトちゃん。
 反射的に嘘と、叫んでしまったのは仕方ないよね?



「私、嘘言わないよ? 何でそんなに疑ってるの?」

「だ、だって凄く上手だったよ!?」

「そうなの? でも私の初めては、なのはだよ?」

「うぅ〜、絶対嘘だぁ〜、手慣れてるんだもん!!」



 珍しく不機嫌そうに眉根を寄せるフェイトちゃん。
 キスした後だっていうのに照れてないし、落ち着き過ぎてると思う。
 わたしが初めてだって言うけど、疑いたくもなるよ! あんなのとても初めてだとは思えない!



「そんな事言われても困るんだけど。なんならもう一回して確認してみる?」

「っ〜〜!? ふぇいとちゃんおすわり!!」

「なの――」

「おすわり!!」

「……はぃ」



 なのはの逆鱗に触れたフェイトは反論さえ許されず。床に正座されられ、長いお説教をされトマトジュースをお預けにされたのは言うまでもない。





終わり



おすわり。某アニメを思い出しますねww
アニメ化2回してますけど、てんは勿論両方とも全話見てましたよ!

段々、なのフェイ書くのが楽しくなってきたw
あとがき書いてて、データ量を確認したら、やっぱり長かったwwwww

これが、サラって書けるなら問題は無いんだけどねぇー
まぁ、頑張るしかないかw

【2012年2月24日 29日  3月1日 3日 4日】 著



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