猿も木からなんとやら







「はぁ……どないしよ〜」



 興味本意で、変身魔法を構築してたんやけど……失敗して元に戻れんくなってしまった。
 部分変身だから見た目以外は支障は無いといえば無いんやけど。
 さてと、どうやって家に帰ろうか? うにゃうにゃ考えてたら、
外からフェイトちゃんの声が聞こえて心臓が飛び跳ねて一瞬固まってしまったんがまずかった……。



「はやて、入るよ?」

「……ふぇ、フェイトちゃん!? ちょ、ちょぉ待って!」



 わたしの制止も間に合わず、扉を開けて執務室に入って来るフェイトちゃん。
咄嗟に夜天の書を投げてしまったんは、仕方ないやんね?



「はやて〜 逢いたかったよ〜♪ ……って、うわぁ!?」



 部屋に入った瞬間に迫ってくる夜天の書を紙一重でかわすフェイトちゃん
 ちっ、避けよった。 気絶でもしてくれたら何とか時間稼げたのに



「……あ、危ないよ はやて! って、夜天の書? こんな大事な物を投げちゃ駄目だよ!」

「て、手が滑ったんよ、堪忍なぁ〜」



 いつもの様にひょうひょうと笑うはやてに苦笑いで答えるフェイトは、
 何とも言えない格好をしているはやてを見て怪訝そうに眉を寄せる。



「気を付けてね? って……なにしてるのかな? はやて?」



 椅子の背もたれに掛けてた、上着を頭に被ったわたしを見て、
 怪訝そうな表情で頭を傾げるフェイトちゃん。 あ〜 そうやね…まぁ、そう思うんが普通やんなぁ〜
 でもな? そんな顔で見んといて! わたし凄く痛い子みたいやんか、フェイトちゃんのアホー



「…いや、ちゃうねん! なんでもないんよ? 今日は上着を被りたい気分やねん!」

「言いたくないんなら、聞かないけど……あまり隠し事されると寂しいかな」



 苦し紛れの言い訳にも関わらず、それ以上追求しないフェイトちゃん。
 フェイトちゃん優しいから無理強いして聞くような事はせえへんもんなぁ〜
 せやけど、そないしゅんとさせてまで隠そうとなんてわたし思てないんよ?



「いや、あんな? 別に隠そうとかそんなんやないんよ?
フェイトちゃんに知られるんが嫌とかやなくて、誰にも気付かれんと元に戻りたかっただけやから」

「え? えっと……どういう事?」



 疑問符を浮かべるフェイトに答えるはやては、少しバツが悪そうに視線を逸らす。



「まぁ…失敗は誰にでもある事やし、隠す程の事やなかったんやけど。
その、余りに間抜け過ぎて…な?」



 頭に被った上着を外して、首を傾げるわたしの頭の上に
 ひょっこり生えた小さな丸い耳を見て目を丸くするフェイトちゃん



「えっと、フェイトちゃん? や、やっぱり呆れてる?」



 目を丸くしたままわたしの頭の上の耳をガン見して固まるフェイトちゃんに、
 恐る恐る声をかけてたら、ぶんぶんと勢い良く首を左右に振って否定された。



「…ち、違うよ! 呆れてなんかないよ!」

「そ、そうなん? せやったらなんで固まってたん?」

「そ、それは、その…」

「その、なに??」

「は、はやてが…」

「ん? わたしが??」



 わたしが何なん? 何でそんなに言い淀むん?
 そして、何で若干顔赤いんよ? 嫌な予感がするんは気の所為やろか?



「……可愛かったから…」

「……へ? 可愛かったから!?」

「う、うん。 余りにも可愛いから見とれてたんだ」

「なっ!? か、可愛いわけないやろ! これ狸やねんで?」

「え? だって可愛いよ狸? はやてにピッタリだよ!」



 予想外の言葉に身を乗り出して否定すると、疑問符を頭に浮かべながら
 頭を撫でてくるフェイトちゃん。
 いやいや、何でそういう事言うん?
 そもそも狸に良いイメージ無いんやけど?



「……フェイトちゃん、狸がピッタリって言われも嬉しくないんやけど。 
それに、これ、失敗やし」

「え? 何になるつもりだったの?」



 不満顔で訴えても、狸がピッタリ云々はスルーなんやね。
 この、天然スキル…どないかならへんのかな?



「……犬」

「何で犬?」

「せ、せやって…フェイトちゃん、犬好きやろ?」

「……え? も、もしかして私の為に?」



 私の言葉に顔を赤く染めて視線を逸らす はやて。 
 認めるのは恥ずかしいらしい。 でも、そんな所も可愛いよ♪
 なにより、私の為にやってくれるってだけで嬉しいよ。 でも…何で犬??



「はやて? 私、別に犬が好きな訳じゃないよ?」

「えっ!? せやって、フェイトちゃんアルフ好きやろ?」

「好きだけど。 犬が好きなんじゃなくてアルフだから好きなんだ!
それに、アルフ犬じゃないよ? 狼だし…」

「こいぬフォームって言ってたからずっと犬やと思てたわ。 じゃあ、何が好きなん?」

「はやて!」



 真面目な顔して何言うてるん!? しかも即答とか!? 
 これっぽっちも冗談やない所が怖いんやけど……。
 そういう事を素で言うんは止めてくれるやろか? 

 あ〜 あかんわ……めっちゃ恥ずかしい……。
 照れ隠しに叫ぶ様にして否定すると同時に頭を軽くペシっと叩いてやった! 
 い、痛いよ、はやて〜 って言ってるけど、自業自得や! ちょっとは自重して下さい。



「っ〜〜〜〜〜!? わ、わたしは動物やない!」

「うぅ…特に、これといって好きな動物は無いよ。 
でも…今の はやて凄く可愛いから暫くこのままでいてほしいなぁ〜♪」

「……狸フォーム、そんなに気に入ったん?」



 嬉しそうに頷くフェイトちゃん。 顔……めっちゃ緩んでるんやけど。 
 まぁ、喜んでくれてるみたいやし、ええかぁ〜



「えっとな? わたしもフェイトちゃんにお願いがあるんやけど…ええかなぁ?」

「ん? なになに? はやてのお願いだったら何でも良いよ!」



 瞳をキラキラ輝かせて近付いて来る、フェイトちゃん。 なんでそない嬉しそうなん?



「実話な? 失敗して元に戻れんくなってもうたんよ〜 術式の解除手伝ってくれへん?」



 わたしの言葉を聞き、表情が固まるフェイトちゃん、
 あれ? わたしなんか無茶な事言うた? 
 せやけど、それやったら。 そう言うてくれたらええやん!
 てか何で、視線まで逸らすんや?



「あの、フェイトちゃん? なんで無言で視線を逸らすん?」

「ぅ…だ、だって、可愛いのに戻っちゃうなんて勿体無いよ〜」

「流石に可愛い可愛いって何度も言われると恥ずかしいんやけど……。 
勿体無いとか、そういう問題やなくて、こんな姿やったら仕事はおろか外にすら出られへんやん!」

「うぅ〜〜〜 で、でも……」



 恋人のお願いより、狸の耳を優先するんかい!! 
 はぁ…時々、フェイトちゃんの事わからんくなるわ。 
 とりあえず、捨てられた子犬の様な瞳で見詰めるんはずるいと思うんやけど



「…わかった。 ちゃんとした術式に組み替えてくれたら、好きな時に狸フォームしたってもええよ?」

「…ホ、ホントに!?」

「うん。 ただし、部屋の中で二人っきりの時、限定でな! 
いくらフェイトちゃんの頼みでも外でコレは罰ゲームやし」

「わ、わかった! 頑張るよ。 けど、その前に……」



 にっこり微笑む、フェイトちゃん。 油断していたわたしは、
 いきなり抱き締められて思わず、すっとんきょうな声を上げてしまう



「ふぇ、ふぇいとちゃん!? な、何するんや!?」

「いや…先に、はやて分を補給しようと思って、えっと……だめ?」

「うぅ〜〜〜。 は、はやて分って……べ、別にダメって事はないんやけど。 
急に抱き付くんは止めてって、いつも言ってるやんな〜?」

「…ご、ごめん。 我慢できなくて」

「…んで、どれくらいで補給終わるん?」

「ん〜〜。 まだ全然足りないよ〜?」

「いや…足りる、足りへんやなくて、どれくらいで終わるんか聞いてるんやけど?」

「えっと……さ、三時間くらい?」

「っ!? そ、そんなに待たれへんわ! フェイトちゃんのアホー!」



 さ、三時間って…わたしに家に帰るなって事なんか?
 わたし家に帰って、やらなあかん事いっぱいあるんよ!
 いくら恋人やからって、その頼みは聞かれへんよ?
 第一、三時間も抱き締められてたら、わたしの心臓が持てへん。



「…じゃ、じゃあ1時間」

「5分!! それ以上は無理や!」

「えぇ〜〜〜〜!?」

「そんな不満そうな顔されても、あかんもんは、あかん!」

「うぅ……短いよ、はやてぇ〜 こんなに好きなのに…」

「ぁぅ。 ふぇいとちゃん、ずるい……。 そんなん言われたら、わたし何も言われへんやん」

「じゃ、じゃあ…その、良いの?」

「うぅ〜〜〜〜。 で、でも、わたし早く帰って晩御飯作らんとあかんし…」

「えっと。 じゃ、じゃあ、今日はやての家に泊まっても良いかな?」

「いや、まぁ、それは、かまへんけど……なんで?」

「そしたら、ずっと一緒に居られるから!
それに、はやての手料理も食べられるしね♪」



 〜〜〜〜〜っ!? な、なんでいっつもこんな恥ずかしい台詞さらりと言えるんよ? 
 あ、あかん…わたし今、絶対顔赤い…うぅ〜〜〜 ふぇいとちゃんのアホー
 赤く染まった顔を見られるのが恥ずかしくて、でも…抱き締められた状態じゃあ、
 そっぽを向く事も出来ず仕方なくフェイトの胸に顔を埋めるはやて

 うん、仕方ないんや!
 別に甘えたいとか、思てへんよ? 身動きとられへんからしゃぁないやん!
 誰に言うでも無く、自分に対して言い訳しつつも、左右に揺れる尻尾。
 それに気付いたフェイトは、つい言葉を漏らす



「…はやて、嬉しいの?」

「へ? な、何が??」

「…いや、だって、尻尾が嬉しそうだよ?」

「っ〜〜〜〜〜〜!? ふぇ、ふぇいとちゃんのアホー!!」

「えぇ!? でも、だって、狸もイヌ科だよね?
だったら、嬉しい時は尻尾が揺れるんじゃないのかな?」

「哺乳綱ネコ目イヌ科タヌキ属やけど、そんなんどうでもええねん!」

「そうなんだ、やっぱりはやては色んな事知ってるね!」 

「今は、褒められても嬉しない!」

「あの、はやて? もしかして、怒ってる?」

「怒ってへん!」

「…ごめんね?」

「怒ってへんもん…」

「ごめん…」



 尻尾を逆立ててブンブン揺らすはやて。 明らかに、ご機嫌斜めである
 そんなはやてに苦笑いになるフェイトは、尻尾の指摘はせずに謝り続けるのでした。




 おまけ



 術式の組み替えが終わって、術式を解除出来て機嫌が直ったはやて。
 満面の笑みのはやてに、お礼を言われて思わず頬にキスをしたフェイトが
 怒られたのは言うまでもない。



「いきなり、何するんや! フェイトちゃんの色魔!」

「色魔は酷いよはやて〜」

「ほんなら、色魔じゃないって言い訳でもあるん?」

「はやてに、だけだよ?」

「意味解らん……ほんなら何でいきなりキスなんかしたんよ?」

「だって、はやてが可愛いかったから…」

「理由になってへん…」

「え!? 十分な理由だよ! はやてが可愛過ぎるのがいけないんだよ!」



 そんな自信満々に言う事や無いと思うんやけど…。 しかも、わたしの所為なん?
 ちょっとは自重しようや。 なぁ、フェイトちゃん





 おわり



あわわわ、気が付けばこんなに月日が経っていました(汗)
遅くなってごめんなさい ゚(。ノωヽ。)゚。
フェイはや、難しい……|ω・`)))チラリ

でも、はやてさんは可愛い///


【2011年4月27日〜5月7日 18日 19日】 著
【2011年6月2日 9日 10日】 再編集



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