「はやて、一緒に――」
「入らん!!」
フェイトの言葉を遮り、ぴしゃりと切り捨てるはやて。キラキラ輝く笑顔が一瞬で180度変わった。
「……まだ、何も言ってないんだけど」
「聞かんでも分かるわ! お風呂やろ?」
「そんな当たり前の事みたいに言われても。私ってそんなに分かりやすいのかな? そうだったとしても、即答で拒否するのは酷いよ、はやて……」
「そやな〜、分かりやすいで。顔緩んでたしな? 即答って言ってもわたしにはフェイトちゃんが何言うか分かってたから即答やないし。拒否権くらいあるやんな〜?」
情けなく垂れ下がった眉。懇願する様に呼ぶ声に素っ気なく答えるはやて。
「は、はやてぇ〜〜」
「なん?」
「一緒に入ろうよ〜〜」
「わたし、入らんって言うたよね?」
「うぅ〜〜 そ、そうだけど。私は、はやてと一緒に入りたい!」
「っ〜〜!?」
縋るフェイトに冷たく答えても、食い下がるフェイトの言葉に顔が染まるのを感じて言葉に詰まる。
ふぇ、ふぇいとちゃんの天然タラシめ! そんな事、サラッと言わんといて。
「……あれ? はやてもしかして、照れてる?」
「っ!? て、照れてへん!」
「いや、顔赤いし。照れてるでしょ?」
「フェイトちゃんの気のせいや! 照れてへん!!」
「そんなに、意地を張らなくても。照れてる、はやても可愛いよ?」
無言のはやてを見ると紅く染まった頬が羞恥を表してるのが分かり、恐る恐る指摘するフェイト。
誰が見ても照れてる様にしか見えないそれを認める事は出来ず。違うの一点張りをするはやてを見て何を思ったのか、「じゃあ、一緒に入ろうよ!」と言い出す始末。
先ほどの弱々しい様子から一変。見事な復活を遂げたフェイトは、いつもの凛とした顔に戻っていて軽く怯んでしまうはやて。
「……フェイトちゃん。何でそういう結論になるん?」
「え? だって、恥ずかしいから一緒に入ってくれないんでしょ? 照れてないんなら、一緒に入っても問題ないよね?」
「問題大ありや! そういう意味で一緒に入らんって言うたんやない! 自分の胸に手を当てて考えてみぃ!」
「え? 私、何かした??」
意気揚々と問題ないよね〜♪ と満面の笑みを浮かべるフェイトに頭が痛くなるはやて。
どういう理屈なんよ。普段は優秀な執務官やのになんでプライベートやとこうなんよフェイトちゃん。頭のネジが数本飛んだとしか考えられへん。
わたしがフェイトちゃんとお風呂入らん原因はフェイトちゃんなんよ? その事を指摘しても、きょとんとした顔で首を傾げるとかどういう事なんフェイトちゃん!?
「それ、本気で言うてるんフェイトちゃん?
あんな事しといて、それは無いんとちゃうん?」
「……あんな事??」
「っ!? ここまで言うても分からへんの?
わたしは言わへんよ! 自分で思いだしや!」
「えっと、はやて? やっぱり分からないんだけど。教えては……くれないんだよね?」
「そ、そんなん言える訳ないやんか! フェイトちゃんのアホ! 色魔!」
「し、色魔!? ちょっ、はやて!?」
「うっさい! フェイトちゃんのスケベ!」
とどめの一言にガックリ肩を落として落ち込むフェイト。あまりの落ち込み様に、流石に言い過ぎたやろか? と少し心配になり慰め様と話し掛けるはやて。
「フェイトちゃん。その、ごめん言い過ぎた」
「……気にしてないよ」
俯いたまま、視線も合わそうとせず。トーンの落ちた声で答えるフェイト。
目も合わさんと、そっぽ向いてめっちゃ気にしてるやん! 普段は、かっこいいのに妙なところ子供っぽいっちゅうか。まぁ、わたしにしか見せへんそういう部分も好きなんやけど。
ただ、これ以上落ち込ますと色々と不味い事になるから、早めに手を打っとかんと。ちょっと危険やし、恥ずかしいんやけど、この方法が一番効果あるしなぁ〜
恥ずかしい気持ちを抑えて、後ろからフェイトを抱き締めるはやて。
「そない落ち込まんといてや、悪かったって」
「……」
「本気でアホなんて思てへんから」
「……」
はやてが抱き締めた瞬間、僅かに反応したフェイトだが。いくら謝っても返ってくるのは沈黙と言う名の圧力。本能的に不味いと悟ったものの、これ以上下手に動けばその後が半端なく不味い事になる。
怖ず怖ずと話掛けるが素っ気ない返答しか返ってこない。
「えっと……お、怒ってるん?」
「……別に、怒ってないよ」
「ほんなら、なんで黙りなん?」
「そ、そんな事ないよ……」
「普通に受け答えしてくれへんやん、拗ねてるんやろ?」
「別に、拗ねてなんかないよ」
「うぅ〜〜。わ、わかった! い、一緒にお風呂入るから、その、機嫌直してくれへん?」
「えっ!?」
一瞬、驚いた表情で振り向いたんやけど、直ぐにまた前に向いてもうた。 あれ〜? 普段やったらこれで完璧に機嫌直るのに。まだ足りへんの?
「き、キスしてもええよ……」
「えぇ!? ほ、ホントに??」
仕方なく諸刃の剣を取り出すと、きらきらした目で見つめるフェイトちゃん。 てか反応早いよフェイトちゃん? もしかして、わたしが言うん待ってたんか、確信犯!?
「うん。それで機嫌直してくれるんやったらその、ええよ?」
「えっと……一回だけ?」
「えっ!? そ、そうやけど?」
「そっか……」
輝かせてた目がわたしの一言でしゅんと沈む。って、何回する気やったん!?
「あの、フェイトちゃん?」
「……なに?」
「機嫌直してくれへんの?」
「……別に、機嫌悪くなんかないよ」
そんないじけた顔して言われても、説得力ゼロなんやけど。あかん、これ以上拗ねるとホンマに後が不味い。ここは折れるしか無いなぁ。
「うぅ〜〜。す、好きなだけしてええから機嫌直してや〜」
「ホホホホホントに!? ホントに良いの!? 途中で、怒らない?」
「お、怒らへん。せやから機嫌ーー」
「うん! じゃあ早速お風呂に入ろう♪」
「あー、うん。そうやね……」
全てを諦めフェイトに了承を告げると、焦りながら捲くし立てられ。呆気に取られながら答えると途中で言葉を遮られる。
お風呂、諦めてなかったんや。
元より選択肢は一つしか無く、乾いた笑いを溢すはやて。そんな反応に不満そうに眉根を寄せるフェイト。
「嫌なの?」
「ぅ……そ、そんな事あらへん、よ」
図星を指され動揺するはやてに、フェイトの声のトーンが下がる。
「……ふぅん、嫌なんだ?」
「ち、違っ!?」
意地悪な笑みを浮かべるフェイトに貞操の危機を感じる はやては、無意識に後退る。だが下がった分だけ詰め寄られ、あっという間に壁際まで追い詰められる。
「ねぇ、はやて」
「な、何かな? フェイトちゃん」
方向転換しようと身体を右に反らすと、壁に手を付いて阻まれ、左を見たらそちらも既に手遅れで。黒い笑顔のフェイトに背中から嫌な汗が止まらないはやて。
「はやて、キスからしようか?」
「そそそそそれは、その、出来ればそれなりのムードを……というか、そんな黒い笑顔で迫られても色んな意味で怖いんですけど!?」
わたしの言葉で、ん〜? と考え込むフェイトちゃん。そして、黒かった笑顔をいつもの王子様スマイルに変えて、ニッコリ微笑み一言。
「はやて、愛してるよ♪」
「っ〜〜!?」
王子様スマイルをまともに見てしまった はやては続けざまに愛の言葉を囁かれ顔は疎か耳まで一気に赤く染まる。
ゆっくりと近付くフェイトの顔。ぎゅっと目を瞑ると、そっと触れる柔らかく暖かい感触。
甘い雰囲気に身を委ねていると、遠くの方から声が聞聞こえる。
「ーーて」
「ーーやて」
声と共に身体の感覚も鮮明になってきて、意識が引っ張られるのを感じた。
目を開けるといつもと同じ少し心配の色を宿した紅の瞳があって、ぼーっとしていたらまた名前を呼ばれた。
「はやて!」
「ふぇい、とちゃん?」
「うん。はやておはよう!」
未だ完全に覚醒してない頭で、名前を呼ぶと舌っ足らずになってしまった。
わたしが名前を呼ぶと嬉しそうに顔を綻ばせるフェイトちゃん。というか、フェイトちゃん今おはようって言わんかった? 今朝なん?
「フェイトちゃん、今朝なん?」
「うん? 朝の7時だけど、もうちょっと後に起こした方が良かったかな?」
疑問符を浮かべるわたしに何を勘違いしたのか早く起こしてごめんねと、謝るフェイトちゃん。
いやいや、そういう事やないねん! さっきまで迫ってきてなかったっけ? 何でベッドに寝てるし、朝なん!?
「あんなぁ、フェイトちゃん。わたしの記憶では今夕方なんやけど、わたしいつの間に寝たんやろか?」
「え? 覚えてない、の?」
「うん、全く覚えてへん。って、何で目ぇ逸らすんよフェイトちゃん?」
「あー、いや、別に何でも無い、よ?」
「めっちゃ怪しいんやけど? 一体わたしに何したんや!」
「な、ナニもしてないよ!? ホントだよ! はやてを美味しく頂いてなんか……あ」
狼狽えるフェイトがポロっと漏らした言葉を聞いたはやての目が一瞬にして据わった。
「……ほぉー、そういう事か。わたしが記憶無いんも、変な夢見たんもフェイトちゃんの所為って事やな?」
「あ、あの、はやて? どっちも私の所為じゃないと思うんだけど」
「問答無用やー!! フェイトちゃん禁欲1ヶ月!!」
「えぇぇぇぇ!? ちょっ、ちょっと待ってよはやて! そんなの私耐えられないよ! それにはやてだって途中からその気だったし……」
「っ!? フェイトちゃん、禁欲2ヶ月な!」
はやての言葉に異を唱えるフェイトは更に墓穴を掘りはやての顔を羞恥で染めた上に禁欲2ヶ月というオプションまで頂いてしまう。
「は、はやてぇ〜」
「うっさい! フェイトちゃんの色――」
色魔と言い掛けて口を閉ざすはやて。そこはかとなく嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
さっきの夢がまるで警告の様な気がしてならない。これってデジャビュ? などと考えて固まるはやてに首を傾げるフェイト。
「はやて? 色って何?」
「え? いや、何でもあらへんよ!」
「はやて?」
「ごめん寝惚けてたみたいやわ、堪忍なぁ〜」
「それなら良いんだけど、禁欲って……」
「あぁ、うん。取り消すわ、気が動転してたみたいやし」
「よ、良かった。一時はどうしようかと思ったよ」
なんとか誤魔化せたはやては心の中で溜め息を漏らす。
取り敢えず誤魔化せたみたいやな、夢に感謝するべきか否か。フェイトちゃんに不用意な事言うんがどれだけ危険なんか分かっただけでも吉とするべきかな?
休日の朝からぐったり疲れた顔のはやてがなのはに助けを求めたのはそれから数時間後の事だったとか。
終わり
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書き始めた時は、ただ単にへたれてるフェイトさんを書きたかっただけだったと思うんだけど。
再編集にあたって、夢オチに叫ぶはやてさんが書きたくなったとか言えないww
はやてさんが、夢に見てしまう程とか! ちょっとは自重して下さいフェイトさん(笑)←ぉ
グダグダなのは許して下さいorz
【2011年3月9日〜17日 4月16日〜18日 2012年1月6日 7日】 著
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