「たっだいま〜♪」
書類仕事をリビングでしていると、ドアが開き、いつもよりトーンの上がった声が響く。
視線を声のする方に向けると、ほんのり色づいた顔のなのはがいた。
「あ、お帰りなのは。早かったね」
「にゃはは。フェイトちゃんと居たかったから帰ってきちゃった♪」
「そ、そうなんだ。えっと、なのは……何で抱きついてるのかな?」
「フェイトちゃんがいるから♪」
「なのは、もしかして酔ってる?」
聞いていた時間より2時間も早く帰ってきたなのはにお帰りと告げると。私と居たかったから早く帰ってきたと言いながら背中に抱きつくなのは。
えっとなのはさん。背中に柔らかい物が当たってるんですが、酔ってますよね?
動揺を悟られない様に、平静を装い無難な言葉で様子を窺う。
「え〜なのは酔ってないよぉ〜♪」
「いや、酔ってるよね? 顔赤いし、身体も熱いよ?」
「むぅ。酔ってないもん!」
「えっと、少しお水飲んで早く寝た方が良いよ」
「やだ! フェイトちゃんの側にいるもん!」
「そ、そんな事言わないで寝よう? ね、なのは」
「フェイトちゃんは、なのはが側にいるの嫌?」
「っ!? そ、そんな事ないよ!!」
「じゃあ、良いよね?」
「いや、でも、早く寝た方が良いと思うし。その、背中に……」
「ふぇ、背中?」
「あ、いや、何でもな、いよ」
酔ってると指摘しても、頑なに否定するなのは。そういえばなのはが酔ってるの初めて見るけど、何か子供みたいで可愛いな。
そう思う反面背中に当たる柔らかい物が、なのはが動く度にバウンドして辛い。このままじゃ幾ら私でも理性が持たないよ、なのは。
それとなく離れてもらえる様な流れに持っていこうとするんだけど、ことごとく裏目に出てる。
磨耗する理性を修正していたら、余計な一言が口から出て慌てて誤魔化した。
「ふぅん。じゃあ、わたしここで寝るね?」
「え? ここでって……ここ?」
「うん。ここ!」
「ソファーで寝るの? 風邪ひいちゃうよ?」
「違うよ、フェイトちゃん。このまま寝るの!」
「ぇ、まさか……この状態で!?」
「うん♪ 良いよね?」
「〜〜っ!?」
「フェイトちゃん? どうかしたの?」
なのはからの、まさかの死刑宣告。抱きついたまま寝る? そんなの絶対理性が持たない! でも、万が一にでも手なんか出したら、なのはに嫌われる。まさに絶対絶命の状態。
額から絶え間なく流れる汗。血の気が引いた顔。これ以上無いくらいに動揺する私。
だけど、背中に抱きついてるなのはに見える筈ないよね? と安心してたんだけど。そうは問屋がおろさないらしい。
「フェイトちゃん?」
「な、んでもないよ? なのは」
「え? でも凄い汗だよ?」
「うぐっ!? えっと、そ、そう熱いからだよ!」
不思議そうに問うなのはに本当の事なんか言える訳もなく。必死に誤魔化すんだけど、あっさり指摘されてしまう。
正論を言われてしまった私は否定する事が思いつかないくらい追いつめられていて。汗=熱いという単純な事しか思いつかない。
「なのはが抱きついてるから? ごめんね、フェイトちゃん」
「そ、そんな事ないよ!! 暖房し過ぎただけだよ! 少し風に当たれば大丈夫だから!」
「でも、そんなに汗かいたままで風に当たると風邪引いちゃうよ? お風呂入ってさっぱりしてきた方が良いんじゃないかな?」
「え、そ、そうだね。じゃあ私お風呂入ってくるから、離してもらっても良いかな? なのは」
自分の所為だとしょんぼりするなのはを条件反射の様にフォローする私。離れられる絶好のチャンスだったかもしれないのに、自分から首を絞めてしまうとか。もう笑うしかないよ。
そう思っていたんだけど、汗をかいたまま風に当たると風邪を引くからお風呂にと、なのはに忠告され。棚からぼた餅……渡りに船? ようやく離れる事が出来そうで一安心する私。
「ん〜、じゃあ。わたしも一緒に入ろうかなぁ〜」
「え。えぇぇぇ!? だだだ、駄目だよなのは!?」
「何で?」
「お酒飲んだ後に、お風呂入っちゃ倒れちゃうよ!」
「むぅ。だってそれじゃあフェイトちゃんと一緒に居られないもん!」
「で、でもなのは。それじゃあ私何も出来ないよ?」
「わたしがしてあげるよ?」
「な、にを?」
「何でも♪」
「……そ、それは遠慮したいかなぁ。あはは」
「フェイトちゃん?」
一安心も束の間、一緒に入るとのたまうなのはを慌てて止める。アルコールの抜けてない身体で何をするつもりなのなのは!?
なのはの身体の事を思って止めてるだけだよ? 決して今一緒にお風呂に入ると私の理性が持たないとかそういう事じゃないよ? ホントだよ?
誰に言い訳するでも無く、内心そんな事を思いながら。子供の様な我が侭を言うなのはに諭す様に話すと予想外の言葉が返ってきた。
あの、なのはさん。嫌な予感がするんですが気のせいでしょうか? 気のせいじゃ無いよね。
仕事中断してもう寝たいかなぁ〜あはは。と、現実逃避する私は、小声で呟きながら意識を手放した。
なのはが不思議そうに私の名前を呼んでる気がするけど。もう良いよね? 私頑張ったよね?
翌日。起きたらベッドの上で、不機嫌ななのはに怒られるフェイトの姿があったそうだ。
その報告をヴィヴィオから受けたはやてが苦笑いで視線を逸らし、あからさまに話題転換をしたのは言うまでもない。
おまけ
「という事なんですけど、どう思いますはやてさん?」
「あー、なんやお腹空けへん? わたしがご馳走するから食堂でも行けへんかヴィヴィオ」
「はやてさん!? スルーですか!?」
「いや、そない言うたかて、わたしにはお手あげやし。恋人どころか結婚してるも同然に見えるんやけど?」
「そうですけど、お互い好き合ってるのに気付かないママ達が焦れったくて。なんとかならないですか?」
「どっちかが告白したら丸く収まるんやけど、二人ともヘタレなんやもん。折角お酒の力で後押ししたのに無意味やったみたいやし」
「今度はフェイトママで試してみます?」
「えー、まだやるん?」
「ママ達が結ばれるまで止めませんよ!!」
「え〜、そんなんほっといてわたしを癒してや〜」
決して諦めない不屈の心を受け継いだひとり娘と、その恋人の捜査司令が執務室でそんな会話を繰り広げている事は誰も知らない。
終わり
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見てて焦れったい二人を援護射撃する、ヴィヴィオとはやてさんのお話(ぇ
付き合ってない上での焦れったいが故の甘さww
あると思うんだ(キリッ
【2012年4月15日】著
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