君なしではもういられない








 誕生日も何のその、今日も今日とて残業で仕事をこなす捜査司令。
 休憩がてら淹れた珈琲に手を伸ばした瞬間、勢い良く扉を開け入って来たヴィヴィオが、開口一番、Happy Birthday♪ はやてさん! と叫んだ事にビックリして危うくコップをひっくり返しそうになる。





「ヴィ、ヴィヴィオ〜。 危ないやん! わたし危うく書類に珈琲ぶちまけるとこやったんよ〜」


「ご、ごめんなさい……」





 しゅんと、落ち込むヴィヴィオ。 素直なんがヴィヴィオのえぇとこやなぁ〜♪
 まぁ、ちゃんと反省してくれてるんやし、これ以上怒るつもりはないんよ?





「あー、まぁ、今度から気ぃ付けてくれたらええよ〜」


「あっ! は、はい気を付けます」





 ヒラヒラと手を振りながら、ニヤリと笑うと、釣られて笑うヴィヴィオ。
 そうそう、笑顔が一番可愛いねん♪ って、ちゃう! そうやなくて、いや、可愛いんはホンマやけど。
 珈琲ぶちまけそうで必死やって、何て言うたか聞こえんかったんやけど。ヴィヴィオ、何て言うたん?





「ヴィヴィオ、ごめん。ビックリし過ぎて何て言うたんかわからんかったんやけど、もっかい言うてくれへん?」





 予想外の言葉だったのか、若干顔をしかめるヴィヴィオ。
 いや、そんな顔されても、聞こえんかったんやからしゃ〜ないやん。





「もぅ〜。 そんなにビックリするなんて、仕事のし過ぎだよ〜。ちゃんと、寝てますか?」





 聞こえなかった事に対して、顔をしかめたんかと思ったら。心配してくれてたんやね。
 せやけど、最後の言葉を真っ直ぐ受け止められへん。せやってわたし、殆ど寝てへんし。
 視線を逸らし、乾いた笑いを漏らす はやての反応に眼光が光るヴィヴィオ。





「あぁ、うん。寝とるよ? うん、寝てる寝てる。嫌やなぁ〜 ヴィヴィオ、睡眠くらい取っとるよ〜」


「怪しい。目が泳いでるし、ホントにちゃんと寝てますか?」


「いや、その、ちょぉ忙しかったと言うか。ほら、わたし捜査司令やし?
 仮眠くらいはしてたんよ? せやから、大丈夫や!」


「はやてさん? 仮眠の意味わかってますか? 充分な時間がとれず少しの間眠る事ですよ?
 つまり、ちゃんと睡眠を取ってないって事ですよね?」


「いや、その、少しは寝てるんやし。そない怒らんでもええやん」


「私、聞きましたよね? ちゃんと寝てますかって! なのに、すぐそうやってはぐらかすし」

「うぐっ!? いや、そんな事は――」


「はやてさん?」





 有無言わさぬ圧力に怯むはやて。



 無意識に圧力かけるんは止めてくれるとありがたいんやけど。そういう所も似た者親子やね。
 けど、14才も年下の娘の怒られるわたしの立場って。何なん?





「……何でも無いです。
 ほんでヴィヴィオは、ちゃんと睡眠取れへん、わたしを怒りに来たん?」


「ふぇ? ち、違うよ!? 私は、ただ、誕生日プレゼントを渡しに来ただけだよ!」





 恐る恐る尋ねるはやてに、慌てて否定するヴィヴィオ。
 おずおずと差し出されたプレゼントを呆気に取られながら、受け取ると恥ずかしそうに視線を逸らされた。





「えっと、ありがとう? って、わたし今日、誕生日やったんか」


「気付いて無かったんですか!? 自分のですよ!」


「あ〜。 ほら、忙しかったしなぁ〜 ヴィヴィオの誕生日はちゃんと覚えてるから安心してや!」


「いや、そういう問題じゃないと思いますけど」


「ん〜。 そうやろか? ヴィヴィオは、わたしの誕生日覚えててくれたやん!
 わたしはそれだけで充分嬉しいし、いくら忙しいからって恋人の誕生日はちゃんと覚えとるよ〜」


「あぅ。 で、でも、はやてさん、誕生日くらいはゆっくりしても良いと思うのですが」


「まぁ、そういう考えも分からんでもないんやけど。
 わたし一様、捜査司令やしなぁ〜 よっぽとの事が無い限りポンと、休みなんて取られへんねんよ〜」


「確かにそうかも知れないですけど、ヴィータちゃんから聞いてますよ!
 休める時も休んでくれねぇ〜 って!」


「うぐっ。そ、それは、その……」


「ねぇ、はやてさん。 何で休まないの?」





 怒ってたかと思ってたら、今度は心配そうに見詰めてくるヴィヴィオ。
 って、近い近い!? そんな顔で、そんな至近距離とか。



 ドキドキと早鐘を打つ心臓を、抑えられず次第に顔が紅く染まってくる。





「いや、その、とりあえず少し離れてくれるとありがたいんやけど……」





 紅く染まった顔を背けるはやて。
 そんな、はやての様子に疑問符を浮かべて首を傾げるヴィヴィオ。





「ふぇ? はやてさん? どうして?」





 なのはとフェイトの鈍感スキルを確り受け継いだヴィヴィオは、意味が分からず、はやての顔を覗き込む。





「ぅ……」





 純粋な瞳で見詰めるヴィヴィオに狼狽えるはやては白旗を挙げずには、いられなかった。





「――こ、降参や! ちゃんと質問には答えるから。頼むから、距離を取って下さい!!」


「え? どうして?」





 わたしの言葉にキョトンとした表情をするヴィヴィオは、更に距離を詰めてくる。
 ぐっ。 睡眠も休憩もろくに取ってへん今の体調じゃ、理性を保つ気力があんまり無いんや!
 かといって、そんなんヴィヴィオに言える訳ないし。わたしにどないせいと!?





「と、とりあえず、距離を……な?」


「はやてさん? ちゃんと理由を言ってくれないと分からないよ!」





 視線を泳がせるはやてに、不満をぶつけるヴィヴィオが更に距離を詰めると、はやての腕にヴィヴィオ胸が当たる。





「っっ〜〜〜!?」


「はやてさん?」





 今のはやての理性を壊すには充分過ぎる破壊力のボディータッチに、フリーズするはやて。
 完全に固まってしまったはやてを心配そうに見詰めるヴィヴィオ。





「はやてさん? 大丈夫?」

「――――っ、だぁ!?」





 散々になった理性をかき集めて、ヴィヴィオから距離をとるはやて。



 あ、危なかった。 ホンマに危なかった。いくら恋人やからってヴィヴィオにはまだ早いっちゅうか、その、ママ達に後でお話しされるっちゅうか。
 わたしはまだ死にたくない! やらなあかん事がいっぱいあるんや。



 ため息ひとつ、ヴィヴィオから離れて若干余裕を取り戻したはやて。
 一人コントの様な、いつもと違うはやての行動に呆気に取られるヴィヴィオは内心、一杯一杯なはやてさんも可愛なぁ〜 と、場違いな事を考えていた。





「はぁ。 あ〜、ヴィヴィオ何の話やったっけ?」


「は、はやてさん!? だから、何で仕事休まないのって理由をですね――」


「あ〜。 せやったせやった! ん〜、まぁ、アレや!
 休んでも一人やし、暇やもん! 何したらええか分からんし」


「まぁ、はやてさん寂しがり屋さんだもね〜♪」


「そ、そんな事あらへんよ?」


「ん〜、そういう意地っ張りな所も大好きだよ♪」


「っ〜〜ヴィ、ヴィヴィオ!?」





 連続で図星を指された上に大好きと言われ顔を真っ赤に染めるはやて。





「そうそう照れ屋な所もね♪ あっ! そだ、はやてさん、さっきは何で距離を取らないと駄目だったの?」





 ヴィヴィオの言葉にピキッと音を立てで固まるはやて。
 無駄と分かりつつも、逃げ道を探す。





「……あー、言わんと、あかん?」


「質問には答えてくれるんですよね?」





 にっこり微笑むヴィヴィオにどう足掻いても無駄だと悟り、がっくり項垂れるはやて。





「えっと、その、わたしの腕にヴィヴィオの、その、む、胸が当たってて、その……」


「……はやてさんのエッチ」


「ぐっ!? せ、せやって、わざとやないんやし……」


「でも、それだけじゃ無いよね? だって、当たる前から距離を取ってって言ってたよね?」


「そ、それだけは、言えん」


「え? えぇ〜」





 不満で頬を膨らませるヴィヴィオに対して、至極真面目な顔できっぱり言い放つはやて。





「これだけは譲られへん! 言えんもんは言えん!
 わたしかて、誰にも知られたく無い事くらいあるんやで? ヴィヴィオにもあるやろ?」


「ふぇ? 私ですか? う〜ん、思い当たらないですけど。はやてさんが言いたく無いなら、良いですよ」





 不機嫌全開やったのに、コロコロ表情かわるなぁ〜 とりあえず、助かったんやろか?



 ほっと、胸を撫で下ろすはやてに、意味深な笑みを浮かべるヴィヴィオ。





「ねぇ、はやてさん。 もうひとつプレゼントがあるんだけど、受け取ってくれますか?」


「ん? そんな気ぃ遣わんでも良かったのに」


「だって、付き合って初めてのはやてさんの誕生日だもん!」


「今からそんなに気ぃ入れてると疲れるで? そんなんせんでも、ヴィヴィオが傍にいてくれるだけでわたしは充分嬉しいんやよ」





 自分で言ってて恥ずかしくなってきたのか、視線を逸らすはやて。





「けど、まぁ、折角ヴィヴィオが用意してくれたんやし、貰おかな〜?」





 はやての了承を得て、プレゼントを渡すべく、行動に移るヴィヴィオ。
 にっこり微笑み、右手をはやての左手と繋ぎ軽く引っ張ると、急に引っ張られバランスを崩し、ヴィヴィオの方に倒れ込むはやて。
 状態を立て直される前に素早く背伸びをして、そっと唇を重ねるヴィヴィオ。





「ちょぉ、危な――っっ!?」





 はやての言葉を遮った口付けは、きっかり10秒後ゆっくりと離れる。
 突然の出来事に何が起こったか思考が追い付かず、頭が真っ白になるはやて。
 悪戯に笑みを浮かべ、ちょこっと舌を出しておどけるヴィヴィオが頬を染めて言葉を紡ぐ。





「はやてさんの誕生日に私のファーストキスをあげたかったの♪」





 ヴィヴィオの言葉を頭で反芻するはやては、何をされたのか理解した瞬間、咄嗟に繋いだ手を離し後退る。
 そんなはやての反応を見て不安になるヴィヴィオは、恐る恐る問い掛ける。





「えっと、はやてさん。 怒ってますか?」





 少し震えた声色に、思わずヴィヴィオの顔を見詰めると若干、涙ぐんでいる。
 ドキリと、痛む心臓。 その反面、飛びそうになる理性をぐっと抑えるもののキスされた事実にボンっと音を立てて真っ赤に染まる顔。
 恥ずかしくて、つい顔を背けてしまうはやて。
 そんなはやてを見て“ふぇ”っと、情けない声を漏らし、今にも泣き出しそうになるヴィヴィオを見て、理性を蹴飛ばし抱き締める。





「ふぇ? は、やて、さん?」


「堪忍な、ヴィヴィオ。 不安にさせてもうたよな?
 頼むから泣かんといて。そんな悲しい顔せんで、な?」


「はやて、さん……」


「ヴィヴィオは、わたしの誕生日お祝いしに来てくれたんやろ?
 せやったら、一番のプレゼントはヴィヴィオの笑顔なんよ? だから、笑ってほしいんや」


「う、ん。 うん、はやて、さん。大好き♪」





 泣き笑うヴィヴィオに、ほっと胸を撫で下ろすはやて。
 するりと口から零れたのは、恥ずかしがり屋なはやてが滅多に言わない言葉。





「ありがとうな、わたしも大好きや……」





 この後、本局の廊下を嬉しそうに、はにかむヴィヴィオと恥ずかしそうに頬を染めるはやてが、手を繋ぎながら帰る姿が目撃されて暫く噂になったそうな。





おわり





おまけ1





「ヴィヴィオ、せやから公私混同や言うたやん!」


「えぇ〜 だって勤務時間外だったんだよ?」


「そ、そうやけど。いちよう職場なんやし、そういう事は控えんと――」


「むぅ。 はやてさんのケチ」


「いや。ケ、ケチって言われても。
 なぁ、なのはちゃんとフェイトちゃんからも何とか言うてや〜」





 拗ねるヴィヴィオに苦笑いになるはやては、親友ふたりに助けを求める。





「済んだことを気にしてもどうにもならないよ、はやて。 別に何か言われた訳じゃないんでしょ?
 幸い、ヴィヴィオとはやてが恋人だって事は身内以外知らないんだし」


「うぅ〜〜。せやけど……」


「違うよ、フェイトちゃん。 はやてちゃんは、ただ恥ずかしいだけなんだよ!
 ナカジマ三佐にでもからかわれたんじゃないかな?」


 なのはに図星を指され、唸る事しか出来ないはやてを慰めるヴィヴィオだった。





おまけ1 おわり





おまけ2





「おぅ! 元気そうだな八神」


「はい、師匠もお元気そうで〜♪」


「そういやよ〜 お前さんの噂、聞いたぜ!
 高町嬢ちゃんとこの一人娘と手ぇ繋いで嬉しそうに帰ってたそうじゃねぇか!」





 ニヤニヤしながら楽しそうに話すゲンヤに、ピシッと音を立てて固まるはやて。





「はぃ? し、師匠、そんな噂どこから聞いたんですか!?」


「ん? 食堂で飯食ってた時に聞こえてきただけだがよ〜 かなり広まってるみたいだぜ?」


「そ、そんなに!? せやけど、師匠。わたし全然耳にしとらんのですけど」


「そりゃ〜 それなりの役職に就いてんだから、お前さんの耳には入らねぇ様に噂が広まってるんだろうよ」


「そ、そんな……」


「で、ホントの所はどうなんだ? 嬢ちゃんとは上手くいってんのか?」


「し、師匠!? そんなプライベートな事聞かんといて下さいよ〜」





 苦笑いのはやてに、態とらしく寂しそうに問うゲンヤ。





「なんだよ、釣れねぇなぁ〜 俺たちの仲じゃねえか! ちょっとぐれぇは話てくれてもいいんじゃねぇか?
 で、キスぐれぇは、したんだろ?」


「うっ!? し、師匠、わたしがそういう事聞かれるん苦手なん知ってて聞くとか酷いんちゃいますか?」


「ん? まぁ、そう言うな! で、どうなんだよ?」


「ど、どうと言われても……」


「なんだよ、じゃあ、されたのか?」





 図星を指され紅く染まる頬。
 そんなはやての様子に、口角を上げ楽しそうに笑うゲンヤにお手上げのはやてだった。





「し、師匠。そろそろ、堪忍して下さいよ〜」


「しゃあねぇなぁ〜 今日は、このぐれぇにしといてやるか!
 まぁ、でも、奥手過ぎると尻に敷かれるぞ!」


「……ぜ、善処します」





 項垂れる、はやてがゲンヤと別れて高町家に向かったのは言うまでもない。





おまけ2 おわり




おまけの方が書いてて楽しかったなんて、い・え・な・いww(マテ)

さてさて、はやてさんの誕生日から大幅にずれましたががが
誕生日SSです。

タイトルですが、毎回悩みますww
SS書きのみなさんはどうやってるんだろう?

思い返せば、ウチがつけるのは、変なタイトルばっかりだと思うんやけど…気のせいじゃないよね?
原因は、2つ。
ただ単にウチのネーミングセンスが可笑しいw
(仮)タイトルをそのまま使用する(ちょっ!?)


今回は、最近よく聴いてる歌のワンフレーズを拝借しましたw

おとなしめの曲って、あんまり好きにならないんだけど…この曲、
2ヵ月ぐらい前に仕事してる時に一日中、永遠頭の中で流れてました(ちょっ!?)
……結果、好きになっちゃったっていうねww

たまにありますww
ただ……某プリキュアの時は流石に参りましたが(; ̄▽ ̄)

何の曲か分かった方は、友達になりましょう♪(マテ)
きっと、気が合います(え?)

え? 駄目?
メッセ待ってま〜す♪(ちょっ!?)


【2011年6月4日・5日・7日・10日 13日〜17日】 著



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