小さな欠伸をひとつ零して、モニターを閉じるはやて。
家に帰るには、時間が遅く例え帰ったとしても、また直ぐに出勤しなくてはならない。
仕方なくというか。もはや習慣になってしまってるが、執務室に完備されてる安易シャワー室で身体の汚れを落とし、仮眠室でパジャマを着る。
髪を乾かし終わり、ベッドに寝転がるとどっと眠気が押し寄せる。意識を手離しそうになって反射的にギュッと握る。
苦笑いになりつつ、モニターを立ち上げメールボックスを開く。
「危ない、危ない、危うく寝てまうとこやったわ〜 ん? ヴィヴィオから2件?」
メールボックスの中には、ヴォルケンリッターの面々や、元六課の面々や、アリサにすずか。そしてヴィヴィオからは2件のメールが届いていた。
今日は大量やなぁ〜♪ と思ったのも束の間、返信もしてないのに2件も届いてる。ヴィヴィオからのメールに首を傾げて開いてみると。
1通目には、ご飯をちゃんと食べてますか? とか、睡眠もちゃんと取ってますか? とか。
よくご飯を抜いてしまいがちになるわたしの事を心配していつもそんな出だしの文章に苦笑いになる。
メールの最後に、控えめに書かれた、逢いたいよはやてさん。けど、無理はしないでね? という文章に顔が綻ぶはやて。
「わたしも、逢いたいわヴィヴィオ。 けど、あの書類の量じゃ、とうぶん無理やろなぁ〜
ホンマ、上の人らは面倒な事いっつも押し付けるんやから」
若干、愚痴の様に吐き捨て、山積みにされた書類を思い出して溜め息を零す。
書類の事を頭の角に追いやり、2通目のメールを開くと。そこには目を疑いたくなる様な言葉が綴られていた。
頭が真っ白になり、その場に固まる事5分間。 再起動して、再度読んでみるものの変わる事の無い言葉。
はやてさんのバカ、大嫌い。 と、短く書かれていた。
見に覚えが無く、どうすれば良いのかわからず、眠る事さえ忘れて途方にくれるはやてだった。
数時間後、日が登り夜が明け起床時間を告げる味気無いアラームが鳴り力無くベッドから起き上がるはやて。
一睡も出来ず、朝を迎えるなんてどんな事件の時も無かったのに、と苦笑いになる。
「朝か……」
回らない頭の中でヴィヴィオからのメールの言葉がぐるぐる回る。
「どないしよ……。わたし、どないしたらええん?」
習慣とは怖いもので、力無く呟きながらパジャマから制服に着替え、執務室に移動するはやて。
丁度、扉を開けて執務室に入って来たリインが、うわ言の様に同じ事をぶつぶつ呟きながら一心不乱に仕事をしているはやてに首を傾げる。
「おはようございますです、はやて、ちゃん?? えっと、どうしたですか?」
リインの呼び掛けにも、無反応で黙々と仕事に打ち込むはやて。
明らかに様子がおかしい主の顔を覗き込み、少し大きな声で再度呼び掛ける。
「はやてちゃん! 大丈夫ですか?」
リインの声にはやては身体を、びくっと震わせ、反射的に俯いていた顔を上げ声の聞こえた方を見る。
「――リ、リイン?」
リインの姿を見て力無く名前を呼ぶはやて、その目尻には涙を溜めている。
家族の前でも友人の前でも仕事で辛い事があっても決して涙を見せないはやてが泣いている。
初めて見る主の泣き顔に狼狽えてしまうリイン。
「はやてちゃん!? どうして泣いてるですか? どこか具合が悪いですか?」
身を乗り出さんばかりに近付くリインに、冷静に成らざるをえないはやて。
「リインおはようさん! ん〜 いつも通りやよ〜 ちょぉ寝不足なんは堪忍してなぁ?」
「言いたい事色々ありますけど。この際そんな事はどうでも良いです! 何で泣いていたんですか?」
心配かけない様に笑顔でいつも通り挨拶をするが、目尻に溜まった涙を指摘され言葉に詰まるはやて。
「うぅ……。いや、あの、その、眠くて、な?」
苦し紛れの言い訳にジト目で睨むリイン。
視線が痛くて泳ぐ藍、そんなはやての様子に主譲りのニヤリとした含み笑いの顔に変わるリイン。
「ところではやてちゃん、いくら仕事が忙しいからって仮眠くらい取ってますよね?」
「う、うん。 シャマルに怒られるし、3時間ぐらいしか眠れんけど。ちゃんと寝とるよ?」
「じゃあ、昨日は、いつ頃寝たですか?」
「え? き、昨日? なんでそんなん聞くん?」
「だって、はやてちゃんあまり寝てなくても、いつも何ともなく仕事してるですよ?
まぁ、疲労に応じてシャマルから強制的に休暇を取らされた日は、下手したら一日中寝てますけど」
「せやね。シャマルには度々やられるなぁ〜 「明日はお休みにしましたからちゃんと休んで下さいね?」って、まぁオーバーワークは大事故に繋がるからしゃあないんやけど。最近多いからちょぉ困るなぁ〜」
「はやてちゃん、捜査司令ですからやる事一杯です〜」
「そうやねん! ただでさえやる事一杯やのに、わたしが捜査司令になったん気に食わんからって。
上の連中が嫌がらせに面倒な事こっちに押し付けるから、仕事してるか寝てるかだけの生活や!
ええ加減堪忍してほしいわぁ〜」
ゲンナリした顔で溜め息を吐き出すはやてを見て、そろそろ頃合いだろうと、ニヤリと笑うリインに不幸にもはやては気付かない。
「で、はやてちゃん昨日は仕事どのぐらい進みましたか?」
「まぁ、ええペースでは進んどるよ?
あまり長時間やっても効率悪いし、ほどほどにキリ付けて休憩はしとるし。けど、もぅ暫くは掛かるやろうなぁ〜」
「じゃあ昨日もちゃんと仮眠は取ったんですよね?」
「えっ!? あ〜、う〜、いや、寝た様な寝てない様な?」
「ちょっ、どっちなんですか、はやてちゃん!?」
「いや〜 なんや良く覚えてないっちゅうか。気ぃ付いたら朝やったみたいな?」
あはは、と渇いた笑いを漏らすはやてに、リインの眼光が光る。
「つまり、眠れない様な事があったって事ですよね? 大方ヴィヴィオとケンカでもしたですか?」
「なっ!!? 何でその事――あっ、いや、その、なんでもあらへんよ?」
何とか誤魔化そうと、取り繕うが動揺を隠しきれず視線が泳ぐ。
「はやてちゃん、わかりやす過ぎです。
そんな状態で仕事してもミスするだけですよ? ちゃっちゃと、仲直りしちゃって確りと仕事して下さいです!」
リインにビシッと、指を刺されぐうの音も出ないはやて。
「うぐっ。せやけど、不用意に話せる状態やあらへんし。ただでさえ機嫌悪いみたいやのにこれ以上怒らせたら」
「はやてちゃん? 仮にも年上なんですから、もっと確りするですよ!」
「か、仮にもって。わたしリインの主やのに。
せやってな? そもそも怒らせた記憶がないんよ? 何で怒ってるかすら分からへんし、どう対処したらええんよ?」
「情報が足りないって事ですか。分かったです!
リインも一緒に考えてあげますから、事の始まりから話すですよ!」
事の恋愛に関しては恥ずかしくて家族にも話した事は無く、出来れば一生話したくないと思っていたが、事が事だけに観念して話し始めるはやて。
はやての落ち込み様に、余程難題だろうと踏んでいたリインは、話が進むにつれ拍子抜けを通り越し呆れてしまう。
「はやてちゃん? 幾ら考えても、直接ヴィヴィオに聞くぐらいしか解決策ないと思うですよ?
ほら、ヴィヴィオが家に居る内にスパッと聞くですよ!」
リインの提案は、的を得ていて非の打ち所が全く無く否定はしないが、それが出来たら端から行動を起こしている。
嫌われて別れようなんて言われたらと思うと、怖くて何も出来ないからウジウジ悩んでいるのだ。
「た、確かにな? わたしもそう思うんよ?
けど、別れようとか言われたら。わたし立ち直られへんし」
「まさかはやてちゃんがへたれだったとは予想外です。
普段はあんなに確りしてるのに。二人の立ち位置がなのはさん達とダブって見えるですよ」
へたれな主につい本音を漏らすリイン。
その呟きは、はやての耳には届かず。 首を傾げて問うはやてに笑顔で誤魔化すリイン。
「リイン、なんて言うたん? よう聞こえんかったんやけど」
「ただの独り言ですから、何でも無いですよ〜」
「そうか? なんや貶された様な気ぃしたんやけど。リインがそう言うんならまぁ、ええわ」
「き、気のせいですよ〜 それより、ヴィヴィオに聞けないなら周りに聞いたら良いと思うです!」
「周り?」
「はいです! なのはさんとフェイトさんに聞いてみるです! 機嫌が悪い原因の手懸かりになるですよ!」
なのはとフェイトの名前が出た瞬間明らかに嫌そうな顔をするはやて。
そんなはやてに、更に畳み掛けるリイン。
「え……聞くん? アノ二人に? 出来れば聞きたく無いんやけど」
「はやてちゃん? ヴィヴィオと仲直りしたくないんですか?」
「したいのはしたいんやけど。いや、そもそもケンカした訳やないんやけど?」
「したしてないはこの際問題じゃないです! 現にヴィヴィオは怒ってるじゃないですか!
もしかして、気付かない内に何かしちゃったかも知れないですよ?」
「た、例えば、な、何をや?」
「それは分からないです、あくまで仮説なんですから! まぁ、不満から来てっていうのもあるかも知れないですね!」
「不満? 例えばどういう事や?」
「そうですね〜 例えば、スキンシップが足りないとか?」
リインの口から出た予想外の言葉に驚くはやて。内容が内容なだけに不用意な事は言えくて、聞き返す事しか出来ない。
「なっ、なん、で、そう思うん、や?」
「だって、はやてちゃんヴィヴィオを傷付ける様な事しないですよね?」
「うん。 ヴィヴィオはわたしの大切な恋人なんよ? 傷付ける様事する訳ないやん!」
「はやてちゃんもだけど、ヴィヴィオも優しいです。故意に人を傷付ける様な事は言わないです!」
「た、確かに。すると、何かしら不満があって行動を起こしたって事か?」
「ん〜 でも、何かしっくりこないんですよね〜 不満って言うか、不安なのかもですね?」
「不安?」
「そうです! 只でさえ、年が離れてる上にヴィヴィオからの猛烈アプローチで恋人になったんですよ?
好きだって事、言葉と態度で示してあげてますか?」
「え? なんで、そんな事聞くんよ?」
「だってはやてちゃん、ヴィヴィオにはまだ早いとか言ってあまり構ってあげてない気がするですよ!
それに、ヴィヴィオの方がそういう甲斐性、はやてちゃんよりありそうに見えるです〜♪」
ニヤニヤとしてやったりな顔で笑うリインの姿が自分と重なり苦笑いになるが、本当の事だけに何も言い返せない。
「へたれさんです〜♪」
「だ、誰がへたれやねん!!」
「じゃあ、早くなのはさんとフェイトさんに聞いて下さいです〜♪ それとも、直接本人に聞くですか?」
「ぅ、リイン、謀ったな!」
「何の事ですか? リインは思った事を言っただけですよ〜♪」
溜め息ひとつ。プライベートでも仕事でもずっと一緒だっただけに、はやての影響をモロに受けているリインの行動に先が読め最早諦めるしか選択肢が残ってない事に仕方なく諦めるはやて。
「……わかった、聞けばええんやろ? 聞けば」
「はいです!」
満足そうに頷くリインに渋々モニターを弄り。なのはとフェイトに連絡を取るべく、なのはに通信を開始するはやて。
つづく
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はやヴィヴィなのに、はやてとリインしか出てこないとはこれ如何にww
いやね? 1本で書ききるつもりだったからねww
次は中編、次も下手したらヴィヴィオが出てこないかもしんない・・・|ω・`))) ←
あ〜、でも・・・ちょろっと出る辺りまで書かんと3本に収まらんかもww
が、頑張るよ! うん。
これが終わったら、エーズオブエースの続きも書きたいし、ね (ノ,,・ω)ノ
【2011年6月26日 7月26日・27日・30日・31日】 著
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