猫の王子様 4
猫好きの性








「アリサちゃ〜ん♪ 大好きだよ〜♪」

「ちょっ!? す、すずかぁ? 抱きつかないの!!  って言うか、恥ずかしい台詞禁止だから!!」



 すずかに抱き締められて、じたばた暴れるアリサは真っ赤な顔で抗議している。
 アリサが本気で抵抗出来ないのを良い事に、満面の笑みでアリサを見詰めたすずかは、アリサの耳元でひと言呟く。



「あんまり暴れると、キスしちゃうよ?」



 その一言でアリサの動きがピタリと止まる。
 さらに詳しく言うと、赤い顔を更に赤く染めて固まってしまう。

 すずかなら本当にやりかねない所が怖いのよね……。
 皆が居る前でそんな事されたら、あたし数日寝込むんじゃないかしら?



「そんなに固まらなくても、アリサちゃんが嫌ならしないよ?」

「なら、良いんだけど」



 アリサの心中を察して、嫌ならしないと言うすずかに安堵するアリサ。
 抱き締めた腕はそのままだけど、満更でもない様子のアリサ。
 恥ずかしい気持ちはあるものの恋人に抱き締められて嬉しく感じない訳がない。





 一方魔導師組の三人は、やっと状況の確認を始めていた。
 認識がずれているのは、場の雰囲気による影響が強い訳ではなく、単に気が緩んでいるからである。

 最早癖になっているのか、普通に話せば良いのに念話で会話を続ける三人。

 はやての指示で、アリサとすずかを見たなのはとフェイトは少し頬を染めて、あさってな事を話し始めた。



【すずか、なんだか生き生きしてるね? 何でだろう?】

【そうだね、う〜ん。はやてちゃん何でか分かる?】

【ちょぉ!! 気にするとこそこか!? アリサちゃんをよく見たら違いがはっきり分かるやろ!!】

【【……真っ赤だね?】】



 間の抜けた答えが返ってきて、思わずズッコケそうになる所を堪え、突っ込みを入れるはやて。
 それなのに返ってくる答えは変わらず、頭が痛くなる。



【ちゃうねん。そことちゃうんや! アリサの頭に猫耳生えてるやろ? 尻尾も生えてるやろ?】



 埒が明かないと判断したはやては、ネタばらしのごとく的確にポイントをつく。



【あぁ!! それですずかが生き生きしてるんだね】

【納得するポイントがちゃうわ!! フェイトちゃんのあほ!!】

【なるほど! そういう事だったんだね?】

【って、なのはちゃんもかい!! 二人とも、どんだけなん!?】

【すずか、猫好きだからね〜♪】

【すずかちゃん、猫大好きだもんね〜♪】

【ちょっ!? わたしの突っ込み全スルー!?】



 はやての説明で納得する、フェイトとなのは。
 だが、結局認識がずれたままである。
 ふたりの的外れな発言に度々突っ込みを入れる、はやてだったが、ステレオの様に同時に呟かれた言葉に絶句する。



【って、ちゃうやろ!! 二人とも気にする所がちゃうやろ!? アリサちゃんの頭に猫耳生えてる時点で可笑しいと思おうや!
 あれをどないかするんが今回のわたしらの仕事や! って事でちゃっちゃと調べよか?】

【ごめん、はやて。すずかの様子がいつもと違ってたから意識がそっちに持ってかれてたよ】

【にゃはは、わたしも。ごめんねはやてちゃん】

【まぁ……分かってくれたらええんやけどな? ほな、ちゃっちゃと始めよか!】

【【うん!】】



 始める前から既にぐったりしているはやてを余所に元気一杯のなのはとフェイト。

 憤りを感じるものの今に始まった事じゃないと、割り切って考えないとやってられない。
 内心溜め息をつきながら、アリサとすずかの方を向くと抱き合っているのが見えてこっちもかと突っ込まずにはいられないはやて。
 関西人の悲しい性である。



「あ〜〜。お二人さん、ちょぉお楽しみ中に悪いんやけどな? アリサちゃんの身体調べたいから離れてくれへんかなぁ?」

「あ、ごめんね? はやてちゃん」

「ええよ、すずかちゃん気にせんといて。いつもの事やしね〜♪」

「だぁれがぁ〜、いつもの事よ!! バカはやてぇ〜〜〜」

「うぉ!? アリサちゃん!? だ、だからわたしが気絶してもうたら調べられへんねんけど。
 取り敢えず、その物騒なハリセン仕舞ってくれへん?」



 毎回何処から取り出したのか分からないスピードで繰り出されるアリサのハリセン攻撃。
 ハリセンを片手にはやての頭を頭目掛けて素早く振り降ろすアリサ。
 音速をも越えるスピードで振り下ろされたハリセンは目で捕らえる事は出来ず風を切る音しか聞こえない。

 それを紙一重でかわすはやての危機回避能力は時空管理局でも右に出る者はいないだろう。
 逆を言えば、アリサの攻撃力もなのだが、如何せん見慣れた光景で周りには気付く者は誰一人いない。



「アンタねぇ〜、毎回毎回あたしを怒らせといて学習しない訳? 一度徹底的に叩き込まないと分からないのかしら? ねぇ、はやて?」

「ちょぉ!? 待って!! 今はそんな場合やあらへんよ? 落ち着いてアリサちゃん」



 言うに事欠いて……。そんな事で流されないわよ? あたしを怒らせたアンタが悪いんだから、きっちり落とし前つけてもらうんだからね!!
 取り敢えず手始めにハリセンで天誅を下す事を決めて、はやてに詰め寄るんだけど。
 不穏な空気を察したはやてが、すずかの後ろに逃げる。



「アリサちゃんごめんなさい、反省してます。
 だからそない怖い空気を纏いながら詰め寄らんといて下さい」



 余程あたしが怖かったのか、すずかの後ろに隠れて“ぶるぶる”震えながら平謝りする、はやて。
 毎回謝るんだったら、最初から何も言うな! この馬鹿!!
 こういう事だけは、察するのが早いんだから本当、質が悪いわよ。
 けど……毎回それで許されると思ってないでしょうね?



「はやて? アンタそれであたしが許すと思ってないでしょうね?
 馬鹿は痛い目みないと学習しないんだから! 覚悟しなさいよ!!」

「いやいやいや、そんな事せんでも十分理解しとるよ!?
 ただアリサちゃんとかをからかうんは、わたしの生き甲斐っちゅうか、ライフワークなだけで……げふんげふん」

「ふぅん、分かってるのに敢えて態とやってたって訳ね?」



 アリサに気圧され言わなくてもいい事まで口走り慌てて誤魔化すはやてだが、眉を吊り上げワントーン下がったアリサの声で無意識に一歩後ずさる。



「いや、えっと、そこまで怒らす様な事はやってへんかと思うんやけど……」

「はやてぇ〜〜、覚悟〜!!」



 冷や汗が止まらないはやては尻すぼみに言い訳をするが、聞く耳をもたないアリサの咆哮が部屋に響き渡る。

 はやての言う通り、一撃必殺を受ける様な事はしてないのだが、相手が不味かった。
 誰もが認めるツンデレで、照れ屋で恥ずかしがり屋で、おまけにへたれと言われるアリサからしてみれば、逆鱗に触れたも同然の事だったようだ。

 振り下ろされた一撃にぎゅっと目を瞑るはやて。
 だが、アリサの一撃がはやてに当たる瞬間すずかによって遮られる。
 一撃を振り下ろしたアリサも、それを受ける筈だったはやても、驚きを露にただ呆然とすずかを見詰めている。
 暫くの沈黙の後、たしなめる様に、アリサとはやてに注意する、すずか。



「駄目だよアリサちゃん。さっきも言ったけど、はやてちゃんはアリサちゃんの為に来てくれたんだからね?
 確かにはやてちゃんも普段から言い過ぎてる事もあるけど、友達なんだから多少は大目に見てあげようよ? ね?」

「うぐっ……」

「ありがとう、すずかちゃん。助かったわぁ〜〜
もう駄目かと思ったんよ〜本当に」

「それは、良いんだけど。はやてちゃん、最近言い過ぎてる事もあるから自重してね?」



 本当の所言い過ぎてる事は無いのだが、アリサに関しては、という意味合いを声色に宿しはやてに注意するすずか。
 ちゃんと意味を汲み取ったはやては顔が少し引きつっている。

 要約すると、アリサちゃん恥ずかしがり屋さんだから程々にね? なのだが、更に深く突っ込むと、アリサちゃんは私のだからあまり手を出さないでね? という事になる。



「い、以後、気を付けます。
 えっと……それじゃあ、始めてもええやろかアリサちゃん?」

「え?? 何がよ?」

「いや、せやからアリサちゃんの身体を調べるんやけど。まさか本気で忘れてへんよね?」

「すっかり、忘れてたわ……」

「ちょぉ!? どんだけ」

「なによ、その呆れた顔は! 元はと言えば、アンタがあたしを怒らせるからでしょ!! 良いからちゃっちゃと始めなさいよ!」

「逆ギレやん」

「良いからさっさと始めなさい!!」

「へ〜い。ほんならなのはちゃん、フェイトちゃん問題の箇所調べてくれへん? わたしはユーノ君に連絡入れるから」

「「了解」」



 あたしが忘れてた事に信じられないという顔で突っ込むはやてを一刀両断。
 逆ギレとか言うけど、全く棚上げも良いところだわ。
 誰の所為で忘れたと思ってるのよ! 文句を言いたいのはあたしの方だってのに。


 はやての指示でなのははアリサの猫耳を、フェイトは尻尾をまじまじと見ながら、恐る恐る触る。すると、アリサから抗議の言葉が上がる。



「っ!? ちょっ、ちょっと!? なのは、フェイトくすぐったいわよ! そんな、そっと触らないでよ!」

「ごめんねアリサちゃん」

「ごめん、アリサ。何が起こるか分からないから、慎重になってるんだ」

「まぁ、それなら、しょうがないわね……」

「にゃはは……。やっぱり本物なんだね? 感覚がちゃんと通ってるから。
 そっちはどうかな? フェイトちゃん?」

「う〜ん。どうやら本物の猫の尻尾みたいだよ?
接続面を調べたいから、脱いでもらって良いかな? アリサ」

「はぁ!? なんでよ!? そんなの耳だけで、充分でしょ?」



 顔を少し赤く染めながら、否定的な言葉を投げつけるアリサ。
 フェイトの判断は間違ってないのだが、自信なさそうに下がった眉がなんとも言えない。



「えっと……アリサ、そんなに怒鳴らなくても。
 必要じゃないかは、調べてみないと分からないんだ。
 取り敢えず、耳から調べるって事で良いかなアリサ?」

「分かった。ごめんあたしが悪かったわ」

「いや、良いんだ。ちゃんと説明しなかった私が悪んだ!」

「アンタだけが悪いみたいに言わない! あたしも悪かったんだし、お互いに落ち度があったって事で良いじゃない!」

「うん。そうだね、ごめんアリサ」

「ったく、そんなに気にしない! 友達なんだからたまには喧嘩ぐらいするわよ」

「うん。ありがとうアリサ」



 照れ隠しで、ぶっきら棒に答えるアリサ。
 見え見えの照れ隠しに微笑み嬉しそうにお礼を言うフェイトは、アリサの猫耳を調べ始めるのだった。





 続く


 書き直しという名の編集作業……大変だったww
この頃は視点がころころ変わるっていう、所業をしていて……。
もう、目が当てられない(苦笑)
はやてさん視点じゃないのが辛いww

【2010年4月24日 2012年1月21日 23日】 著

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